会計ひろば2
顧問先への事業計画書作成
月次決算導入の支援が強み
 税理士法人横浜会計は、私を含めて 8人が在籍する税理士法人です。横浜市や東京都内の小売業、卸売業、製造業、建設業、サービス業など幅広い業種の零細企業、中小企業を顧問先として活動しています。
 私たちの強みは主に2つあります。1つは、弁護士や司法書士、行政書士、社会保険労務士、IT関連会社、保険会社などとの独自の人的ネットワークを構築しているため、会社経営に関するさまざまな問題に対し、人や会社を紹介したり、協業して支援したりなど、ワンストップでサービスを提供できることです。この人的ネットワークは、異業種交流会などを主催して、個人的なつながりを通じて構築してきたもので、このような関係性の構築も重視しています。
 もう1つの強みは、顧問先に対して事業計画書の作成や月次決算の導入を促し、それらの作成・導入支援を行っていることです。税理士事務所によっては、年に1回、税務署への申告のための試算表を作ることだけを主な仕事としているところもあります。具体的に言えば、決算のときだけ減価償却や消費税を計上したり、賞与も支払いしたときだけ経費として計上したりといった処理業務です。このような業務だけでは、試算表を作るまでは利益が出ている計算だったのに、それらを計上した途端に赤字になってしまい、あわてて銀行に行くといったケースも少なくありません。会社としては、毎月の売上高や仕入値などを入力してデータベースを作っているのに、それを活用できていないのではあまりにももったいないと言わざるを得ません。
 そこで、月次決算という手法を導入しました。これは、減価償却や消費税も毎月しっかり計上し、賞与も半年に1回計上するのではなく、6分の1に割って毎月計上するなど、毎月決算する形でその時点での正確な財務状況を把握していく手法です。
こうすることにより、毎月の固定費などがわかるようになり、これに粗利益率を加えて逆算すれば、損益分岐点がわかるので、儲けを出すために必要な売上高が見えてきます。さらに、こうしたデータが整えば、固定的な出金などキャッシュフロー計算もできるので、この先いつ頃資金繰りが苦しくなるかなど、自社の財務状況も明らかになってきます。そうなれば、銀行に早めに相談に行くこともでき、あわてて資金調達することもありません。こうして経営の先行きを見通すことができれば、事業計画書を作成し、銀行に対して詳細に事業計画を説明することもできるようになります。いわば、今まで後手に回っていたことに対し、先手を打てるようになるのです。
定期的に顧問先で役員会を開催
先手の資金繰りが可能に
 こうした月次決算、事業計画書の作成を全面的にサポートするほか、それらの資料やデータを受けて、今後どのように財務の舵取りをするかについて意思決定をするために役員会を毎月開くことも提案し、オブザーバーとして助言を行っています。役員会には会社の経営陣2〜4人が参加し、月次決算の数字をチェックしながら前月のレビューをしたり、前月の決定事項の達成度、進捗状況を確認したり、今ある問題をシェアして解決策を話し合ったりします。その進行支援や議事録作成が私たちの主な役割となります。
 これは、従来の税理士事務所の範疇を越える業務かもしれません。しかし、こうして零細企業や中小企業でも経営陣が財務に関する知識を身に付け活用していくことが、適切な資金繰りや経営には不可欠です。その啓蒙と支援が私たちの税理士法人の付加価値であり、存在意義だと考えています。
 実際に月次決算、事業計画書、役員会の導入は20社以上の顧問先ですでに進めています。ある顧問先では、以前は毎月赤字で資金繰りに追われていましたが、導入後は月次決算の作成や決算書の見方を経営者が自ら身に付け、最近では一年先の事業計画について役員会で話し合いができるようになりました。資金繰り面でも自ら銀行交渉に乗り出し、先手、先手で手を打てるようになっています。
販売管理ソフトなどIT導入を提案
メリットは「検索性」の向上
 零細企業や中小企業の経営者に対しては、ITの活用も積極的に提案しています。ITを導入するメリットは、スピードや効率性のアップ、正確性の向上など、業務改善につながることは周知の事実です。その中でも最大のメリットは「検索性」だと考えています。紙ベースで売上や仕入値などの数字を管理していては、いざ販売計画や事業計画の策定に役立てようと思っても、必要なデータを探すのに時間と手間がかかってしまいます。しかし、販売管理ソフトなどでデータを管理していれば、クリック1つでデータを呼び出すことができます。この検索性の良さはデータを経営に役立てる際には、大きな武器になります。
 経営者は勘で商売をすることも多いでしょう。そうしたときに、その勘が当たっているかどうか、意思決定の裏付けをするためにもデータが必要です。ITを導入していれば瞬時にその裏付けが可能となります。
 そこで、最近顧問先に推奨しているのが、OBCの奉行シリーズの「商奉行」に代表される販売管理システムの導入です。「商奉行」は、見積りから受注・売上・請求・入金と複雑な販売業務の流れを強力にサポートする販売管理システムであり、データ管理が容易になるとともに、データの活用も簡単にできるようになります。このシステムがあれば、経営陣がデータを活用できるだけでなく、一般社員とも受注状況や入金状況がシェアできます。つまりデータをブラックボックス化せず、オープンブック化でき、社員は販売する際にそれらのデータを役立てられるわけです。商売の基本である売り・買いの部分はぜひともITの力を借りるべきだし、私たちも今後多くの零細・中小企業への導入を図っていきたいと考えています。
数字の活用でワンランク上の経営を
会計以外の問題・悩みにも対応
 今後は月次決算、事業計画書、役員会というアプローチを、より世の中に広めていきたいと思っています。特に零細企業では、数字を読み、資金繰りの予測を立てて、対応するといった財務の基本を習得していない経営者が非常に多いのが現状です。もしワンランク上の企業を目指すのであれば、経営者も財務の面をしっかりと見る必要があります。私たちはそうした上昇志向のある経営者をしっかりとサポートしていきたいです。
 また、会計の問題以外にも対応していきたいです。今も会計から離れて経営者の方々の悩みを聞く機会が多いのですが、その悩みの中で最も多いのが人材育成の問題です。「人が育たない、育てるのが難しい」とよく聞きます。それに対して、私はいつもこう答えています。「社長がやってしまうから育たないのです」と。
 人を育てるには、とにかく仕事を任せて、失敗もたくさん経験をさせるのが一番です。これは自分の経験からも言えることですが、育てるには「失敗させる」しかないと思います。失敗してはじめて失敗しないための方法を自らが考え、実践して、成長することができるのです。今後もそういった悩みを聞き、親身になったアドバイスができる事務所でありたいと考えています。
Vol.18
2010年夏号
このコーナーでは、OBCのASOS会員である会計士・税理士といった、企業と必ず接点のある職業会計人の方を、現在のトピックを交えながら紹介していきます。
菅野 忠
代表社員
税理士
菅野 忠
(すがのまこと)
税理士法人 横浜会計

●税理士法人 横浜会計

住所:神奈川県横浜市磯子区森1-15-1-319
TEL:045-752-0831

2003年に税理士法人横浜F・Y・Sを設立。横浜市内を中心に幅広い業種の顧問先を持つ。顧問先では必要性に応じて、税務署への申告のための試算表作成だけでなく、事業計画書作成や月次決算を通じて資金繰りを改善していくためのアドバイスや支援を提供。財務面からの経営改善に寄与できることを強みとしている。顧問先に対して経営に役立てるという視点からITの導入を積極的に提案する。また、人材育成関連やその他の問題・課題に関しても相談に応じるなど、親身になったサポートにも力を入れている。2010年6月1日に社名を税理士法人横浜会計に変更した。

●奉行EXPRESS 2010年夏号より