「社長の嘆き−どうやったら成功するんだろうITって」(1)

会社名
株式会社キートゥサクセス
投稿者名:代表取締役 金高 誠司
株式会社キートゥサクセス  代表取締役 金高 誠司
 
   
 
社長はコンピュータを信用していない!?


ある社長との話

長くシステムインテグレーターでSEや営業を経験し、その後銀行系シンクタンクで業務改革や情報システム戦略の立案を担当した。その間、様々な企業と様々なテーマで出会い、苦しみ、喜び、今日に至っている。それらの出会いのなかで、数多くの中堅・中小企業の社長が、情報システムについて悩んでいる姿を見てきた。また、大きな投資を行いながら、いっこうに効果の上がらない情報システムを導入した企業や、比較的少ない投資で成功を収めた企業なども見てきた。本コラムでは、それらの経験から、中堅・中小企業の社長が考えている情報システムとは何か、どのようなことで悩んでいるのか、そして、どうすれば効果を生み出す情報システムを導入できるのか、について4回シリーズで述べてみたい。  

数年前、情報システム戦略立案をテーマにしたコンサルティングをある企業から依頼された。コンサルティング内容は、TOPインタビューからスタートし、各部門の業務インタビューや現行情報システム調査などを行い、次期情報システムのあるべき姿を策定し、必要なシステム機能を定義するところまでである。契約書締結の段階で、その企業の社長と出会った。70歳手前の穏和な社長である。

その社長は、初めて会うなり、「金高さん、私はね、コンピュータを信用していないんですよ」と切り出した。私はきょとんとした顔で「なぜですか?」と問い返した。すると「道楽息子みたいなもので、お金ばかりかかって、なんにも役に立たないじゃないですか」「この前もね、コンピュータ上には在庫があるのに、倉庫には商品がなくって、受注即発送の対応ができず、えらくお客さんに怒られましてね」と笑顔でとつとつと話してくれた。そこに同席した経理担当の常務が、「社長、それはコンピュータが悪いのではなく、倉庫の入出荷をキッチリ登録しない業務部が悪いんですよ」と社長の言葉を遮るように反論した。

「金高さん、いつもこうなんですよ」「確かに、常務の言うとおりかも知れません」「しかし、例えそうだとしても、在庫だけではなく、様々なところで数値が間違ってるんです」「常務、毎月月末に何人もの担当者を使って、支払一覧表と仕入先からの請求書の違算をチェックしているじゃないか。あれだってそうだよ」「高いお金をつっこんで、なんで残業までしなけりゃならんのだ・・・」と。

このやり取りを聞き、「どの企業も同じだな。特に中堅・中小企業ほど業務の不整合が情報システムの有効性や効率性を邪魔してしまっている」と心の中で思いながら、「お取引しているシステムベンダーからのサポートやアドバイスはないのですか?」と社長に問うてみた。社長は、「今のシステムは、パッケージではなくスクラッチ開発とやらで10年ほど前に導入したんですが、そのベンダーの担当SEがころころ変わってしまい、導入当初の内容を知っているSEがいないんです」「だから、相談しても、保守契約外だなんだかんだと言って、追加費用ばかりを言ってくるんです」「それに、我が社の中でもシステムの中身を理解しているのは、誰一人いないんじゃないかと思うんです」「本音を言うと、にっちもさっちも行かない状態ですかね・・・」との答えが返ってきた。

中小企業のジレンマ

株式会社キートゥサクセス  代表取締役 金高 誠司 別の企業ではこのような話がある。その企業は、30年来生え抜きの情報システム課長が一人で自社システムを管理してきた。情報システム部長は経理部長兼任であり、すべてその情報システム課長に任せ、数回のリプレースもその情報システム課長が一人でベンダーとやりとして対応してきた。当初その企業の社長は、情報システム課長を信頼し自慢していた。私とは個人的に繋がりのある社長で、私はその社長に会うたびに、「社長、ひとりに任せっきりにしていると、情報システムの中身がブラックボックスになってしまい、将来危険ですよ」と助言していたが、数年前までは聞く耳を持たなかった。しかし、その社長も徐々に不安になってきたのか、昨年、製薬会社のシステム部門にいた自分の息子を情報システム次長として自社に入社させた。その後、その社長に会うとえらくしょげ返っているのではないか。「金高さん、息子にえらく怒られましてね。なぜ、課長一人に何十年も任せていたんだって」「ドキュメントもなく、システムの中身がわかるものは課長の頭だけで、何かをしようにもその課長がそっぽ向けば何もできない状態だって」・・・

21世紀に入り、情報システムの発展はめざましいものがある。大企業は当然のごとく中堅企業から中小企業まで、情報システムを抜きにして業務を遂行することはできなくなっている。ところが、大企業や先進的な企業は、専任で情報システムに携わる人材を揃えている。しかし、大半の中堅・中小企業は、その要員の確保すらままならない。だから、システムベンダーのいいなりになってしまう傾向が強い。パッケージ導入ならまだしも、スクラッチ開発などでシステムを構築すると、大半の中小企業は失敗してしまう。前者の企業などは典型的である。逆に、一人の担当者に任せっきりで、その担当者がいないとどうすることもできない企業も散見される。後者の企業などのパターンである。

中堅・中小企業の情報システムの課題(中小企業白書より)

下図は、2008年版中小企業白書で掲載された「IT投資やITの活用における課題」を示したグラフである。実は私は、中小企業診断士として、10年にわたり中小企業白書と実際の中小企業と違いがあるかどうかについて検証を続けている。2008年版の中小企業白書で提示されている課題について考えると、先に述べた企業のような状況を多く見ることから、ほぼ的を射ていると判断することができる。中堅・中小企業が情報システムの効果を高めていくためには、人材の確保が必須課題であることは間違いないであろう。しかし、それだけで本当にうまく行くのだろうか。後者のような企業も多く存在していることを考えると、どうもそれだけではないように思う。そのあたりについて、次回のコラムで述べてみたい。


 
成功する情報システム導入ステップ
 
 
 スペシャリスト金高社長のプロフィール
株式会社キートゥサクセス 代表取締役 金高 誠司

大阪府出身。

株式会社東洋情報システム(現TIS株式会社)から、
株式会社三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社) を経て
2000年株式会社キートゥサクセスを設立。

趣味はゴルフ。

高杉晋作の「苦と楽を差し引きすれば、浮き世の値わずか三銭」、
丹羽伊藤忠商事会長の「認めて、任せて、褒める」が座右の銘。