前回のコラムで、中堅・中小企業が情報システムを導入し、それを成功裡に導くためには、企業としての成熟度を認識し、社長自身が意識改革を行い、CIOとしてリードしていくことが重要であると書かせていただいた。それらが前提となって、はじめて具体的な情報システムの導入をどのように行うのかを考えていくのであり、それについて本コラムで述べていくこととする。 情報システムを導入する場合、「その目的はなんなのか」「今の情報システムは経営に役立っているか」の2点を明確にする必要がある。ここで考えていただきたい。例えば、現在では、はじめて情報システムを導入する企業はほとんどないと考えられる。大なり小なり、情報システムを導入し業務に活用しているはずである。そのような環境下において、ハードウェアやミドルウェアの技術革新が速いため、どうしてもインフラの陳腐化が進んでしまう。そのため、インフラだけの置き換えで情報システム投資を行う企業が多い。そんな場合も、「なぜ、インフラを置き換えるのか」「それによる経営に対する効果はどのようなものか」を検討しなければならない。 大阪に、コンサルティングから情報システム開発まで長くおつきあいをさせていただいている中堅製造業のO社がある。そこの社長は、非常に独創的で、自らの事業を否定しながら新しい事業を考えるベンチャー的な意識を有している方である。数年前に、その企業の情報システムの再構築を依頼された。 「金高さん、うちは企業を対象に商売をやっていますが、今後は広く一般消費者とも取引を広げる必要があるんですよ」と事業の構想について、その社長は語り始めた。いろいろと事業の展望や方向性を聞いた後、その社長は、「そこで情報システムが必要なんです」と切り出した。「うちは、販社機能とメーカー機能を有した会社です。しかし、その機能連携が現在の情報システムではできていないんです」「それを強化することは当然なんですが、企業や消費者との接点についてもシステム化したいんです」と情報システムに対する考え方に話が展開していった。「なぜですか?」とその社長に問うてみた。社長は、「お客様の面倒な業務をこちらで負担し、顧客サービスを高めたいんです」「お客様からの発注情報が、製造現場まで一気に流れることで、納品スピードを高められるじゃないですか」「それが、きっとお客様が求めている事へのサービスになるはずなんです」と本質的な考えを懇切丁寧に話してくれた。 その社長が言いたいことをまとめると、 「顧客サービスを高めるために、顧客がいつも在庫や商品問い合わせを電話やFAXで行っている業務を軽減してあげたい」 「フロントからバックヤードまでの情報連携のスピードを上げることで、納品リードタイムを今より速くしたい」 「それらを行うことで、顧客から見た自社の企業の位置づけが高まり、かつ、自社内の無駄も省くことができる」 である。 いよいよその企業の要件定義フェーズに入ったときのことである。要件定義フェーズのキックオフにおいて、社長はメンバーに対し、「できるだけパッケージの機能に業務を合わせて下さい」と冒頭の挨拶で打ち上げたのである。メンバーの中には、そんなものできるわけないと怪訝な顔をしている人もいた。また社長の無理が始まったと困った顔をしている人もいた。しかし、社長は続けて、「業務を複雑化しているのは、皆さん自身です」「よく考えて下さい。これまでの慣習を引きずることで何か得なことがありますか?」「もっと単純に業務を考えることで、みんなが使いやすいシステムになると考えています」と挨拶を終了させた。 それからは、社長と我々側とメンバー側との戦いであった。社長自らも要件定義フェーズのミーティングの大半に参加して、「この機能では、今の業務はカバーできません」「こういう風に考えたらどうなんだ」「いや〜・・・」「何が困るんだ」「運賃計算がそれではできないんですが・・・」「こうすればどうなんだ」「・・・」の連続であった。実は、その企業は我々が情報システム再構築を担当する前に、大手システムベンダーから見積もりを取っていた。見積段階では、システムベンダーの営業とSEが、担当者とかなり詳細な打合せを行い、約2億円の見積提示がなされ、そんな大規模なシステムではないと判断した社長が、我々に相談を投げかけた経緯がある。要件定義が終了し、詳細な開発見積を算定した。おおよそ、大手システムベンダーの見積に比べ1/2の費用で開発することになったのである。当然、パッケージをベースにしたものであり、かなりの業務をパッケージの機能に合わせ、かつ切り捨てていったことも要因である。 その企業の新しい情報システムは、昨年の4月から本番稼働している。稼働当初、現場はかなり混乱した。社長に対する風当たりもきつかった。しかし、どんな情報システムでも稼働当初から安定するものではない。おおよそ3ヶ月後の昨年7月頃から徐々に安定し、現在はなんの問題もなく稼働している。また、当初社長の目的や経営効果であった「顧客業務の負荷軽減」や「納品リードタイムの短縮」なども今年に入り目に見えて効果が出てきている。その企業の情報システム再構築を成功させたのは、我々だと言いたいわけではない。社長のリーダーシップ、目的と効果の明確化、業務の複雑化の排除、など、成功すべき要因がふんだんに詰まっていたからである。コンサルタントは、単にそれを引き出しただけにすぎない。その企業の姿勢が成功に導いたと確信している。 4回にわたり、中堅・中小企業がどうすれば情報システム導入を成功するかについて、筆者自身の経験談をもとに述べてきた。最後に「情報システム成功フロー」を示しておきたい。コラムを読まれた社長さんへ最後のお願いである。情報システムは道楽息子ではない。企業の未来を導くこと、それが本当の情報システムなのである。
キートゥサクセス 金高氏のスペシャリストコラム (全4回)