「社長の嘆き−どうやったら成功するんだろうITって」(2)

会社名
株式会社キートゥサクセス
投稿者名:代表取締役 金高 誠司
株式会社キートゥサクセス  代表取締役 金高 誠司
 
   
 
情報システムで失敗する企業の本質とは!?


システムベンダーの言い分

前回のコラムで、中堅・中小企業が情報システムの開発・導入を成功させるためには、人材の確保が必須課題であることは間違いないと申し上げた。しかし、情報システムの要員をきっちりと育成・配置することで失敗を回避することはできない。その点を今回は考えてみたい。

システムベンダーは、エンドユーザーには見えないが、数多くの赤字プロジェクトを抱えている。その理由はさまざまなであるが、「見積段階の精度が甘かった」「要件定義で詰め切れていない点が多くあり、開発段階で大きな手戻りが発生した」「開発担当者自身が何を作っているのかを理解していない」などである。
 
システムベンダーがシステム開発を失敗する理由に、顧客側の体制や優柔不断さなどを挙げることも多い。例えば、要件定義の段階で、システムベンダーから依頼している課題の返答に対し、顧客側が決めきれず先送りすることなどは日常茶飯事だと言う。システム開発が失敗する原因は、顧客側にもあるとの言い分だ。筆者からすると、そのプロジェクトをリードできない言い訳にしか聞こえないが、よく考えるとあながち外れているとも言い難いような気がする。

「優柔不断」というキーワードがポイントのようである。ある企業のシステム開発におけるサポートをしたときのことを思い出した。その企業は、売上高約30億円、従業員数100名弱の中小企業である。パッケージをベースにした販売管理システムを導入するため、いわゆるフィットギャップ分析をベンダーから受けているときの話である。パッケージが保有する機能に対し、その企業が要求する機能との差があれば、アドオン型のカスタマイズになるのは当然である。システムベンダーの説明を聞き、その企業の回答を確認する打合せに同席した。しかし、担当者をはじめ企業側からの参加者は、パッケージの機能と自社の機能が明らかに違っても、「それは違います」とは全く言わない。言わないどころか、「その機能を社内で説明してからご返事します」との一点張りである。システムベンダー側が困ってしまい、「金高さん、なんとかうまくとりまとめてもらえませんか」と依頼される始末である。

企業側だけの打合せに参加して、その本質が見えてきた。みんな怖いのである。何が怖いか。それは、「自分が決めてしまい、それが失敗の原因になると責任を負わされてしまう」「あの業務はこうだから、おそらくこの機能で行けるはずだ。しかし、万が一違うと営業部門がだまっていない」「違うと明確に言い切って、要件の追加が発生してしまうと、費用が増加してしまい、社長に対し説明できない」など、本当に情けない理由で決めきれないのである。責任を取りたくないのである。その打合せに参加して、システムベンダーの言い分も「当然か」と思ってしまった。

意思決定ロジックに問題あり

株式会社キートゥサクセス  代表取締役 金高 誠司 一般的に、システム開発に取り組んでいる企業側の担当者は、長年その企業に勤めていることが多い。だから、業務そのものの理解は浅くない。自社の業務がどのような特徴を有していて、どの点をシステムでカバーすべきかは、だいたい分かっている。しかし、それをきっちりとシステムベンダーに伝えない。組織における役割や責任を明確にしていないからである。自分の領域や自分の権限を越える意思決定には参加したくない従業員が多い。それが結局、システム開発における優柔不断を招いてしまっているのである。システムベンダーからすれば、「そんな意識で開発担当者になってほしくない」と思うかも知れない。筆者もそう思う。しかし、前回のコラムで述べたように、代わりになる人材が豊富にいるわけではないので、そのような状況に陥ってしまうのではないだろうか。
 
中堅・中小企業の業務は、それほど複雑だとは思わない。だから、思い切ってパッケージに業務を合わせることは難しくないと考えられる。そうすれば、システム開発費用も抑えることができるし、業務改革に展開することもできる。しかし、その意思決定を誰もしない。だから、システム規模がふくらみ、開発期間が延長され、結果的にコストアップに繋がり、かつ使い勝手の悪いシステムになってしまう。

何が本質なのか

ビジネスパーソンにとって、自分の立場が一番大事であり、システム開発ごときで降格やクビになどなりたくないと思うのは心情であろう。しかし、それでは、たまたまリーダーシップの強い従業員が存在していない限り、優柔不断から脱却し、社内やシステムベンダーと渡り合うことはできない。筆者は、企業における組織文化の悪い側面がシステム開発における最大の失敗の原因だと考えている。業務を理解した従業員がいる。インフラに詳しい従業員がいる。最新の開発技法について理解している従業員がいる。それらは本質的に関係ないのではないか。

組織文化とは、その企業が保有する価値観の共有の程度と理解できる。例えば、後ろ向きな価値観が根付いている企業の組織文化はなんとなく暗い。前向きに取り組む姿勢が薄い企業などである。またお客様のためにビジネスを展開するんだとの価値観が根付いている企業の組織文化は、前向きなよい面が社内の雰囲気になる。価値観は一朝一夕に根付くものではなく、その企業の歴史から作られるものである。また、経営者の価値観が企業の価値観になることも多い。特に中小企業などは、社長の考え方が組織文化を創ってしまうと言っても過言ではないだろう。

中堅・中小企業のうち、特に中小企業の場合、ワンマンな経営者が多く存在している。ワンマンな経営者は強烈なリーダーシップで事業を展開し、自社を引っ張り、意思決定の迅速さで成功することが多い。しかし、ワンマンな経営者な企業ほど、そこで働く従業員は、自分でものを考えないし、自分で意思決定することができない。先の失敗する本質を組織文化と位置づけたのは、そのような企業のシステム開発に他ならない。

あるコンタクトレンズ小売店の話である。全国に100店舗近く展開している小売店である。非常に業績もよく、成長性もかなり高い。その企業の特徴は、経営者のワンマンなスタイルからくる斬新的な売り方である。店長や店員はなにも考えなくてよい。ただひたすらに、経営者の言う目標に対し、経営者の言うやり方で、仕事をこなしていけばよい。その企業は、経営者の考えや方針、手法が間違っていなかったため、どんどんと成長していった。しかし、最近経営者が病気を患い、長期間入院することになり、子息が実質経営者として経営するようになった。その子息と話す機会があり、「やはり、組織文化の弊害がでているな」と痛感した。その子息は、「うちの従業員は何も考えないし、何も意見を言わないんですよ」「この前もPOSシステムと顧客管理システムをリプレースするにあたり、従業員から優秀だと思うメンバーを数名ピックアップし、プロジェクトをくんだのですが、全く何も考えていないことが歯がゆく、システムベンダーからも失笑を買っていまして・・・・」。  

情報システムの開発を成功させるためには、特に中堅・中小企業が成功させるためには、実は単にシステム開発の現場だけをフォーカスしていては間違いだと筆者は考えている。企業としての成熟度(大人度合いと理解してほしい)がなければ、どれだけよいパッケージを導入したとしても、単に事務機にすぎないのである。次回は、その点をもう少し掘り下げて考えていきたい。


 
成功する情報システム導入ステップ

 
 
 スペシャリスト金高社長のプロフィール
株式会社キートゥサクセス 代表取締役 金高 誠司

大阪府出身。

株式会社東洋情報システム(現TIS株式会社)から、
株式会社三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社) を経て
2000年株式会社キートゥサクセスを設立。

趣味はゴルフ。

高杉晋作の「苦と楽を差し引きすれば、浮き世の値わずか三銭」、
丹羽伊藤忠商事会長の「認めて、任せて、褒める」が座右の銘。