特集:押さえておきたい担当者別・実務別対応事項
Case1経営者
 今回の消費税改正は、経営にとってこれまで以上に大きなインパクトを与えます。今後の市場動向を見極める力、経営の舵をどのようにとって行くのかが問われています。また、売上や仕入等、取引先との関係だけでなく、消費税改正に伴う生活の安定やワークスタイルなど、従業員のサポートも考えていかなければなりません。増税を単なる「税率アップ」と考えず、より深く戦略的に捉えることが求められます。
経営の方向性を見極め明確化する
 2014年4月1日から施行される8%への税率アップは、単なる「増税」の一言でくくられるものではありません。現行の5%というギリギリのラインをいよいよ越え、さらにこの先の15年10月には、現行の2倍となる10%の大台へと突入することが予定されています。わずか1年半という短期間で、倍の負担を強いられるインパクトは、企業間であれ、対消費者であれ、多大な影響を及ぼすことは間違いありません。企業はコストを下げるために仕入れ先や取引先の見直しを行い、事業を一本化して縮小路線に切り替えるかもしれませんし、消費者は買え控えに走り、より値段の低い商品を求める傾向が強くなるかもしれません。
 そうなった場合、経営者が今回の税制改正を、「数字の変化」として捉えるのか、あるいは「経営戦略の見直し」として捉えるのかで、企業の将来が大きく変わってきます。つまり、経営の方向性を見極め明確化することが重要なのです。
多様な雇用スタイルを取り入れる
 節税の観点から雇用を考えると、「外注化」が1つのキーワードになります。
 消費税が増税されると、増税分を価格転嫁できずに増税分の負担を会社側が強いられる可能性があります。そこで業務を外注化させることで消費税の課税仕入れとなり、負担額を減額することが可能になります。また、社員の社会保険が外れることにより、社会保険料の会社負担額も減るというメリットがあります。
 ただし、計画のないままでは単にコスト増を引き起こすだけなので、例えば、経理部門などのアウトソーシング化といった戦略的な選択が必要となります。
帳簿上の数字増減に惑わされない
 消費税改正により税率が上がることで、決算書上の見え方も変わってきます。ここでの注意点は、売上の変化です。例えば、売上の前年比が大幅にアップしていた場合、増税の駆け込み需要による一時的な売上増加にすぎないかもしれません。書類上で売上が伸びたからと言って、急いで仕入れを増やしたり、従業員を増員したり、設備投資を焦ったりというのは禁物です。単に増税だけが影響した売上アップは、そう長続きしません。増えた仕入れは在庫を増やし、雇い入れた人員は簡単には契約をきれません。ローン購入の設備費用を払い続ける余裕もなくなるかもしれません。経営者には判断力に加え、分析力も求められています。
PICK UP! 1 価格表示を経営戦略に
抜表示と税込表示で印象に違い
税抜表示と税込表示とでは消費者の購買心理に差が生じます。特に小売業の場合、顧客の特性や競合店の動向などを考慮に入れた価格表示を選択しましょう。また、今後の税率変更を見越して、価格を10%のラベルをまとめて発注してしまうことも念頭に置いておきたいところです。
■税抜表示

◎メリット…税込表示をしている同一商品と比較して値ごろ感があり、購買心理にためらいが出にくくなる。
◎デメリット…消費者がレジでの精算時に予期せぬ支払額になることがあり、不信を招く恐れがある。税込価格の文字が小さく見づらくなっているとクレームの対象になりかねない。
■税込表示

◎メリット…実際の支払金額なので、消費者に誤解を与えない。消費税の金額を計算しやすい。
◎デメリット…値上がり感があり、買え控えを起こす可能性がある。

2014年新春も開催します!
OBCの消費税改正関連セミナー・
イベント情報
昨年開催した奉行フォーラム2013では多くのお客様にご来場いただいた消費税関連セミナー。OBCでは今年も平成26年4月施行消費税改正に関する様々な催しの開催を予定しています。
消費税改正に伴う経営のヒントから、担当者が知っておきたい奉行シリーズの活用・操作方法まで、幅広いテーマを設定し、皆様の業務にお役立ていただけるような情報を盛りだくさんでお届けします。

消費税改正サポートサイト
奉行シリーズに関する消費税率改正(8%)対応プログラムについての詳しい変更内容はOBC Netサービスの「消費税改正サポートサイト」にて公開中!
*本サイトでは消費税改正に関する情報を随時更新しています。ブックマークのご登録が便利です。
Case2経理担当者
 消費税改正に伴って業務が最も多忙になるのが経理担当者です。まずは、消費税改正がどの業務に影響を与えるのか、その影響によってどのような実務が発生するのか、さらにその実務にはどのような準備をしなければならないのか、といった業務の洗い出しが必要です。慌てることなく確実に消費税改正を乗り切るために、OBCによる消費税改正関連のイベントやセミナーなどを活用するのもおすすめです。
納税資金の確保と消費税滞納回避
 預かった消費税(消費者等から預かった消費税)から、支払った消費税(外注先や仕入れ先などに払った消費税)を差し引いた金額を納税するのが消費税です。よって、決算時に消費税額を納付するまでの間は、消費税を預かっていることになります。この事実を忘れてしまい他の支払に充ててしまうと、後になって支払えなくなるケースも少なくありません。今回の増税で気を付けなければならないのが、納税資金を意識的に確保する必要があるということです。というのも、例年同じような業績で推移していた会社が、例年通りの消費税の納税額しか用意していなかった場合、いざ納付をしようとした時に手元資金が足りなくなってしまい、消費税分が払えなくなると、消費税の延滞が発生します。消費税の延滞があると、様々なペナルティが課せられます。滞納を回避する方法としては、毎月消費税を計算し、その納税資金を積立てるために預金口座を作って管理をする方法などがあります。消費税の発生額を簡単に計算するには、(税引前利益+租税公課+減価償却費+人件費+法定福利費)×8/108とすると大まかな納税額が算出できます。
主なペナルティ
◎消費税の納税を滞納した場合
⇒延滞税の発生:基本年利14.6%。納期限までの期間または納期限の翌日から2ヵ月を経過するまでは年利4.3%。
◎消費税の申告・納付がなかった場合
⇒無申告加算税の徴収:納付すべき税額に対して50万円までは15%、50万円を超える部分は20%(自主申告の場合は5%)。
◎金融機関からの融資に影響
◎信用調査への影響
税抜経理と税込経理の戦略的選択
 経理処理について選択が認められている税抜経理と税込経理では、どちらの方式であっても消費税の納税額自体には影響はありません。ただし、売上高や仕入高などの幅の見え方が増税に伴い大きくなります。また、固定資産の計上額が税込と税抜では、取得価額ベースの優遇税制などの適用可否に影響します。税抜経理か税込経理の選択によって有利になる場合、不利になる場合が起こるので、シミュレーションを行いながらどちらを選択する方がよいのか判定しましょう。
税込経理と税抜経理の計算例(売上高1,000万円、仕入高500万円の場合)

影響を受ける償却資産
以下のように固定資産は取得価格に応じて損金算入の特例があります。この取得価格が各金額を超えるかどうかについては、税込経理の場合は税込価格、税抜経理の場合は税抜価格で判定します。
区分
取得価額
損金算入
本則
10万円未満
全額損金算入
20万円未満
3年間で均等償却
中小企業のみ
30万円未満
全額損金算入
例:中小企業等の少額減価償却資産の場合⇒278,000円の資産を購入
各種システムの動作確認
 税率の変更に伴う各種システムの動作確認が必須です。会計ソフトでは、新税率に対応はもちろん、複数の税率が混在する処理が簡単に行えることが絶対条件です。今後の税率変更を見越してバージョンアップやオプションを変更・追加することも必要となります。他にもPOSレジやECサイトの決算処理システムなど、確認しなければならないシステムがたくさんあります。ベンダーの対応を把握し、準備を進めましょう。
*OBCの対応方針についてはOBCNetサービス内にある「消費税法改正サポートサイト」をご確認ください。
PICK UP! 2 税務調査に備える
消費税の税務調査は、法人税の調査と同様、通常は過去3年分の申告内容を調査し、帳簿、請求書、領収書等を確認します。決算の数値が赤字になったからといって税務調査の対象にならないとは限りません。税務調査の重点は、虚偽の申告をして不正に税金の納付額を少なくしたり、還付金を得ようとしたりしているかどうかです。これらを証明する事実関係が審査されます。消費税の税収が多くなり、消費税の処理に係る影響が大きくなることが予想される今後、税務調査の頻度も多くなると思われます。
■税務調査のポイント
◎売上や仕入、資産の購入などの計上時期は適正かどうか
◎取引の課税区分が適切に処理されているかどうか
◎取引の課税区分が明確化されているか
◎簡易課税の適用が適正か
◎届出書の提出は規定通りか 等
帳簿、請求書、契約書、納品書などを提出する場合があるので、ミスなく処理し、調査が入った時にすぐ提出できるよう保管しておきましょう。
2014年4月のもう一つのビッグインパクト
Windows XPがサポート終了、PC環境の移行は時間がカギ。Windows 7 or Windows 8へ
2014年4月のもう一つのビッグインパクトと言えば、WindowsXPのサポート終了です。サポート終了に伴う影響は、業務に支障をきたす恐れが高く、速やかなWindows7もしくはWindows8へのバージョンアップが求められます。新年度に向け、消費税改正準備に新OSへの切り替えと、慌ただしさが続きますが、導入や変更に必要な期間を考慮しながら、速やかな移行を目指しましょう。

新OSに移行する必要性
問題発生時の対応ができない
電話やメールによるサポート、関連情報の提供が終了。パソコン故障時の原因究明や迅速な対応が難しくなります。
更新プログラムができず最新の状態に保てない
最新の状態にアップデートする更新プログラムが提供されず、プログラムの実行に不具合などが生じる可能性があります。
脆弱性を突いたウイルス感染の恐れ
セキュリティ更新プログラムの提供終了によるウイルスやマルウェアの感染リスクが増大します。安全なIT環境の維持に問題が生じます。
関連製品のサポート終了による使用制限
サポート終了に伴い、ウイルス定義ファイルや周辺機器のドライバーの提供が終了の可能性大。各メーカーによるサポートが受けられない、あるいは使用できなくなる恐れがあります。
※一部例外があります。詳しくは各メーカーにお問い合わせください。
互換性の不具合で起こる業務の停滞(新OS移行後の注意点)
新OSを業務で使用するためには、単に移行を完了しただけでは不完全です。周辺機器の実行やソフトウェアの動作など確認が必要です。互換性があるものでも、不具合の可能性は否定できません。
使い慣れていたWindows XPから新しいOSへ切り替える際は、「操作や機能などを上手く使いこなるか」という不安はつきものです。Windows XPのサポート終了に伴い駆け込みでOSを切り替えた場合、操作に手間取って業務が滞ってしまうのではないかという不安もあります。 そこで活用したいのが、ベンダーなどによる移行支援サービスです。短期間で操作をマスターしたい、移行後の業務を効率的に行いたいといった要望に対応します。
富士通エフ・オー・エムの製品はこちら
富士通マーケティングの製品はこちら
Case3営業担当者
 取引の最前線に立つ営業担当者は、消費税改正の影響を直接的に感じるはずです。事務的な面では契約書や見積書などの税率の変更に加え、経過措置等の注意書きや、価格変更など取引先への明確な説明が必要になります。営業活動の面では取引先や価格の見直しが入るかもしれません。これまでの信頼関係を崩さないよう、ミスをさけ、担当者自身がしっかりと消費税改正の知識を身に付けておきましょう。
見積書・納品書に税表示の注意書き
 契約書、見積書、納品書、請求書など、営業担当者は顧客との間で、必要に応じた書類のやり取りが頻繁に行われます。経過措置の適用を受ける場合や、消費税改正施行後のトラブルを回避する意味でも、口約束や書面に残さない曖昧な契約はせず、書面上に明確な税率(あるいは税額)の記入や、改正後の注意点を明記すると問題発生時にも適切な対応ができます。納品日や作業完了日が1日ずれただけで税額に3%分もの差が発生してしまいます。大きな金額になるほど税額も高額になり、ミスによっては取引の中止、会社の信用問題にも発展しかねません。経理担当者に任せきりにせず、営業担当者自身がきちんと説明できるよう、知識を身に付け、注意を払いましょう。
15日締めの請求書の作成例(旧税率と新税率が混在した請求の場合)
リーガルフォーマットの作成
 リーガルフォーマットとは、法的な要綱をまとめた書面のことを言います。先に挙げたような契約等の消費税に関わる事項をまとめておき、何か問題が発生した場合に備えておくと迅速に対応できます。業種業態によって対応が異なるので、それぞれの特徴を押さえたフォーマットを作成しておくことをおすすめします。
*工事の請負等は経過措置や工事の遅延や譲渡など、税制改正に伴う契約が複雑なため、しっかりとポイントをつかんでおきましょう。
消費税改正後の返品等に注意
 消費税改正の施行後、旧税率が適用された品物の返品等については、新税率ではなく、旧税率で計算されます。税率が混在するとどちらの税率が適用されるか迷ってしまうことがありますが、基本は「該当する商品を販売した時点での消費税額」です。返品の際は相手側にきちんとその旨を説明し、適切な対処を行いましょう。
旧税率時に購入した商品の返品について(旧税率5%で販売した商品が14年4月1日以後に返品された場合)
PICK UP! 3 想定されるクレームの対応準備
税率の混在で、クレームや問い合わせが増えることが予想されます。相手が勘違いしていることもあるので、納得のいく説明ができるよう、関連パンフレットを作成したり、専門家を招いた社内研修を行ったり、従業員全員がきちんと正しい対応できるよう準備が必要です。説明する側の対応によって顧客の印象も変わります。事務作業の一環としてではなく、営業戦略と捉えることも重要です。
Case4総務担当者
 消費税改正に伴い総務担当者にも関連業務が発生します。総務担当者のメインは「サポート」です。各部署の事務的なサポート、消費税改正の知識向上を目的としたサポート、従業員の生活サポート、様々なバックアップを行います。このような業務は、総務担当者自身が幅広い消費税の知識を持っていないことには務まりません。しっかりとしたサポートができるよう、心構えが必要です。
社内の消費税改正対応サポート
 総務担当者の各担当者に向けた消費税改正対応のサポートとはどのようなものが考えられるでしょうか。まずは消費税改正の実務に関わる勉強会の実施です。消費税改正関連の書籍はたくさん出ていますが、基本となる知識は本で学ぶことができても、やはり実務レベルまでは網羅しきれません。懇意にしている税理士・会計士に講師を頼み社内で勉強会を開いたり、一般に開催されているセミナーを活用したり、それぞれの担当者に向けた情報を提供しましょう。
*OBCが実施する消費税改正関連セミナー情報については「OBCネットサービス」をご確認ください。
増税を見越した経費の見直し
 増税で一般顧客の財布の紐が固くなるため収益は落ち込み、経費の圧迫を招きます。しかし、極端な削減は疲弊を招いてしまうので、社内でアイデアを出しながら、無理なく続けられる削減方法を取り入れることがポイントです。
●交通費
 回数券の購入や交通手段の見直し、徒歩や自転車への切り替え、仮払の金額見直し 等
●消耗品費
 まとめ買いをする、文具などは最後まで使用する、本当に必要なものなのかを再確認する 等
●水道光熱費
 節電・節水の実施、無駄のない使用 等
福利厚生と従業員の生活支援
 消費税改正により値上げが実施されると、消費者の生活必需品への支出も増え、生活がひっ迫し、生活の安定が揺らいでしまう可能性も否めません。従業員は会社を支える大切な存在です。従業員が安心して生活できる環境を整えることは、結果として会社に利益をもたらします。会社としてどのようなバックアップを行うのかを改めて伝えると、従業員も安心して仕事に打ち込めるようになります。福利厚生の充実をはじめ、ローンの組立てや積立計画などのライフプランニングをサポートできるような体制を整えましょう。
●奉行EXPRESS 2014年冬号より [→目次へ戻る]