「元気!」組ビジネスリポート
地元の元気を取り戻す! 出発点は地域貢献
誰もが幸せになれる紅茶一杯の奇跡を起こす
感動の伝播が新たな可能性を生み出し続ける
栃木県宇都宮市の中心街にあるメインストリート・オリオン通りの一角に本社兼店舗を構えるワイズティーネットワーク株式会社。茶葉はインド産やスリランカ産のほか、珍しい国産、中国産、イギリス産を取り揃え、フレーバーティーには世界から厳選された素材を使用。ブレンドは全て手作業というから驚きです。「JAZZの宮」や「餃友茶」など、想像を掻き立てるネーミングの“栃木県由来のブレンドティー”で地域の活性化に一念発起した同社から経営のあるべき姿を見出しました。

ワイズティーネットワーク株式会社
本社/〒320-0803 栃木県宇都宮市曲師町5-3タキヤビル2F(オリオン通り商店街内)
TEL & FAX 028-639-6601
代表取締役…根本泰昌 従業員数…7名

世界の紅茶と軽食を提供するティーサロン「Y’s tea room」、および同店舗内に併設するショップ「Y’s tea」を運営。また、紅茶教室「Y’s tea school」の主催、オリジナル紅茶のプロデュース、地域活性アドバイザーや食育の講演会も行う。

紅茶教室 「Y’s tea school」 一杯の紅茶の奇跡、体験してみませんか?
《水曜日午前の部、金曜日夜の部、土曜日午前の部を開設》
Y’s teaでは店舗にて、紅茶の美味しい淹れ方をはじめ、紅茶の基礎知識や歴史など、紅茶がますます好きになる紅茶教室を開催しています。紅茶好きの方、紅茶に興味のある方、この機会に紅茶の魅力を再発見してはいかがでしょうか。
◎詳しい内容・日程・費用・申し込み等につきましてはホームページをご確認いただくか、電話またはメールにてお問い合わせください。店頭でも受け付けています。
※定員になり次第、予約受付を終了いたします。あらかじめご了承ください。
キャリアを捨てて身ひとつで飛び込んだ紅茶の世界
周りの“優しさ”を振り切った地域貢献としての起業

 「11種類の原材料をブレンドしたこのUtsunomiya Tea Storyは、奇跡の紅茶と呼ばれているんですよ。口にした瞬間、人によって感じる味が違って、ブレンドされていないピーチやイチゴの味がするという人もいる。紅茶は紅茶でしかないけれど、一杯の紅茶でその日を特別な日にしたり、薬では治せない心の病を癒したり、様々な素材を混ぜ合わせることでマジックを起こすことができるんです」。
 ワイズティーネットワーク株式会社代表取締役社長の根本泰昌氏が、出身地であるこの地に同社を創業したのは2006年5月のこと。根本氏は自身がブレンドしたUtsunomiya Tea Storyを手に、開業までの想いを語ってくれました。
「私が子供の頃にあった商店街のワクワク感は、もはや影を潜めていました。かつてのように地元の人が自分の住んでいる街を誇りに想い、愛着を持ち、人を惹きつける場所にしたい、栃木県と宇都宮を元気にし、最終的には世界を元気にしたい。このような想いの元で起業しました。地域に貢献することが第一で、商売は二の次。起業に当たっては、儲けは一切考えず、皆を幸せにするものは何かを探しました。模造紙二枚に思いつくキーワードを5000個以上書き出し、その中から癒される・持続可能である・誰もが楽しめる・副作用が無い・笑顔になる等のキーワードを設け、該当するものには○を、そうでないものは×を付けていきました。その結果、浮かび上がったのが、その時に飲んでいた紅茶だったんです」。
 見つけてしまったからにはやるしかない、紅茶で皆を元気に幸せにする――。決意は固まりました。しかし、それまで大手製薬メーカーで開発や市場調査を担当していた根本氏にとって、前途多難な道のりが待っていたのです。
「紅茶はあまりにもありふれたもので新鮮味も無く、市場は飽和状態です。正統派となると、高級や高価といったイメージが固定されているし、安価なティーバッグも溢れています。しかも当時、栃木県は紅茶の消費量は最下位レベル。店舗の坪単価も都内並みで、正直、マーケティングをやっていた経験からすると不利な条件ばかり。大手紅茶メーカーの方からは、栃木では絶対失敗するからやめたほうがいいと“優しい助言”もいただきました。でも起業するのはあくまで地域貢献のためで、儲けのための起業とは異なります。それに絶対的な自信がありました。だって紅茶を飲んで不幸になる人なんていませんからね」(根本氏)。

紅茶を通じて地域の特産物という資源に気づかせる
宇都宮と栃木県を“ダサイ”から“カッコイイ”へ

 起業の準備として1か月半でシニアティーコーディネーターの資格を取得。その日に修了祝いと称して都内のインド料理店で友人と食事した根本氏は、大胆な行動に出ます。これが全ての始まりでした。
「今までの人脈を使えば、関係者を紹介してもらうこともできましたが、それでは誰かに借りを作ることになるし、自分の力でどこまでできるかが勝負だと思いました。それでうまくいかなければ起業せず会社勤めをしろということです。今までのキャリアも肩書きも捨て、名前と住所・電話番号のみ書かれた名刺で、その店のインド人店長に、紅茶で地域貢献する会社を立ち上げたいと話しました。情熱がどこまで通じるか試したんです。つまり紅茶のビジネスに対しての“自分試し”でした」(根本氏)。
 情熱は通じました。人から人へ、次々と“会うべき人”を紹介されていった根本氏は、なんと出会いのリレー10日目にして、インドの重鎮と対面を果たし、ダージリンにある茶園のアポイントまで取り付けたのです。根本氏は当時を「神がかっていた」と振り返ります。
 鋭くも優しいインド人達の協力と研ぎ澄まされていた自身の感覚で、良質な茶葉の輸入を取り付けた根本氏は、早速本来の目的である地域貢献に取り掛かります。
「栃木県といえばイチゴ、宇都宮といえば餃子。何となくパッとしないことを地元の人もわかっています。一方で、栃木県は緑茶・紅茶のもとになる茶葉栽培も行っていますし、サッカー、バスケットボール、アイスホッケー、自転車のプロチームも擁しています。宇都宮に目を向ければジャズ、カクテル、妖精など魅力的なものもたくさんあります。地味だけど視点を変えれば、特産物はたくさんあり、これらは立派な“資源”です。サッカーと紅茶、ジャズと紅茶、一見では結びつきませんが、ストーリーを持たせることで結びついてくるのです。v.sでなく、常に他と“and”の関係になるのが紅茶です」(根本氏)。
 地元の人たちがプライドを持ち、地元をカッコイイと自慢できる街に――。根本氏の挑戦が始まりました。

ストーリーと共に一杯の紅茶が起こす奇跡を伝える
カップの奥にあるすべての人の幸せに責任を持つ覚悟

 同社から広がった紅茶の輪は確実に広がっています。その証拠に、宇都宮市は2010年と2011年、栃木県は2011年にそれぞれ紅茶消費量全国1位を記録。営業活動は行っていませんが、日本を飛び越えて海外にまでファンを増やし、企業や農家との協業、学校での食育、病院や施設でのティーセラピーなどを行う機会も増えています。
「絶対失敗すると言われながらここまでやってこられたのは、相当な苦労もありましたが、やっぱり紅茶に人を幸せにする力があったからこそだと思います。当社の使命はビジネスの成功ではなく、一杯の紅茶が起こす奇跡を伝播させることです。五感で感動させることは大前提ですが、その紅茶に物語を加えることで、さらに感動は増し、様々なイノベーションを与えてくれます。ワイズティーはきっかけでかまいません。色々な形で紅茶が残ってくれればいいのです」(根本氏)。
 大量に仕入れて原価を安くしたり、輸送コストを抑えるために同じ農園から素材を買い付けたりといった経営の基本は一切参考にしない同社。それには理由がありました。
「当社はハレとケに同じ紅茶を飲むことは考えていません。それが常時70種類以上、年間の新作数を含めると100種類を超える所以です。産地別の茶葉も、自分で目利きした高級茶を国内外含め揃えています。コストを意識しないのは、この事業がマネーゲームではないこと、さらには茶葉を作る人や摘む人にしっかりと対価を払うべきだと考えているからです。当社は紅茶を飲む人はもちろん、紅茶を作る人の幸せも背負っているのです。ティーカップの奥に見えるものの大切さに気づけなければ、私たちは存在すらできないのですから」(根本氏)。
 「目指す事業モデルの参考書はない」と断言し、経営の常識を度外視する同社ですが、経営は軌道に乗り、新たな可能性を広げ続けています。常に原点に返り、信念を貫き通す姿は経営の本質を映しています。

●奉行EXPRESS 2013年夏号より [→目次へ戻る]