特別連載コラム第4回:軽減税率では常に税率の適性を意識  現場でのグレーゾーン発生による混乱回避のために今できる準備を
軽減税率では税率の適性に注意。教育や情報共有を確実に
軽減税率の線引きの中で、税率8%と10%の異なる税率が適用された後、 企業は常に税率の適性が問われる ことになります。「8%と10%の税率をしっかり区分して計算できるかどうか」、「顧客に向けて価格が違うことについてしっかり説明できるかどうか」など、 自社における明確な軽減税率のルールや従業員の教育、チラシやパンフレット等による顧客への説明資料も必要 になってきます。
1.自社ルールの作成
軽減税率の定義にはグレーゾーンが生まれやすく、現場で判断しにくくなり、それがクレームや信頼の低下につながる可能性があります。また税務調査で指摘されることも考えられるため、軽減税率における自社のルールを設定しておくことが必要です。まずは軽減税率の定義について再確認しておきましょう。
飲食料品については、消費税率が10%へ上がったあとも現行の8%に据え置かれる軽減税率が適用されます。ただし、軽減税率の摘要で言うところの飲食料品には、外食・ケータリングは含まれないとされており、下の図のような事例が想定されます。
軽減税率では、グレーゾーンに迷う事があります。例えば、ハンバーガー店での軽減税率の摘要可否については、国税庁が公表していたQ&Aによると、レジでオーダーをもらう時、お客さんの「テイクアウト」か「店内飲食」のいずれかの回答によって判断するとされています。しかし、お客さんがレジでテイクアウトすると言って、店内飲食をしていた場合はどうなるのでしょうか。Q&Aの文面どおりに判断すると、レジ時点で判断するので軽減税率が適用になるわけですが、こういったケースがかなり横行すると税務当局は黙ってはいないでしょう。
もしもこの時、 税務当局から軽減税率の適用が否認された場合、月々の売上高が1000万円であるのであれば、消費税が8%と10%では20万円の差額が生じることになります。税務調査によって5年間さかのぼって差額について納付を求められた場合、20万円×60ヵ月=1200万円の消費税を会社が負担しなければならない事態が発生します。 この差額は、今さらお客さんからもらうわけにはいかず、会社にとって大きな損害となります。
これらのグレーゾーンへの対策としては、例えばお客さんが「テイクアウトする」と言った場合は店内へ入れない仕組みにして店内飲食ができなくしたり、「店内飲食」に変更する場合は消費税8%と10%の差額をいただくなどといった自社のルールを設定しておくとよいでしょう。

2.従業員への教育
従業員への教育も重要です。対応する従業員が軽減税率を理解して自社の軽減税率のルールを把握し、さらに業務がスムーズに行えるよう社内での意思の疎通ができる体制を整え、顧客や社外に対しても説明できることが大切です。特に飲食店や小売店ではエンドユーザーとのやり取りで問題が発生しやすいので、パートやアルバイトへの教育もしっかりしましょう。
ハンバーガー店の事例のように、軽減税率の対応ではお客さんにとって不便が生じる可能性があります。また、消費税増税という負担増についての不満も、下手をするとお店に向けられる可能性すらあります。
特にこの消費税判断が必要な業種である飲食・小売業ほど、接客が会社の業績を左右するため、対応をしっかり行えるかがポイントになります。特にレジ周りはパート・アルバイトが担当することが多く、また昨今では外国人労働者を採用しているケースも多くあり、仕組み作りと教育には一定の労力とコストがかかることを覚悟しておきたいものです。
そして、実際に運用していく現場には失敗がつきものです。最初は多少なりとも混乱することも想定し、マネージャーなどもトラブル対応できるように準備しておきましょう。
3.顧客に向けた案内を作成
軽減税率について自社の意思を顧客に伝えるための案内を作成するとよいでしょう。クレームが発生した際のエビデンスにもなります。
消費税の軽減税率においては、一物二価という特殊な状況が生じます。この混乱を従業員に一つ一つ対応させていくことも大変な労力とコストが生じます。それを少しでも和らげるためにも、様々なツールを用いて事前に案内しておくとよいでしょう。どのような場合に税率8%の軽減税率が適用されるかなどのQ&Aをパンフレットや掲示板、ニュースレターやホームページなどで公開するなども有用です。また、自社の軽減税率対応について理解してもらうためのチラシやリーフレットをレジで配るといった方法も一つかもしれません。
4.税務調査に対応
税務調査に対する準備も必要で、軽減税率対応に当たっては、税理士や会計士との密なやり取りを増やすことも重要になってきます。
グレーゾーンなど判断に迷う事例は、前述以外にも多く生じる可能性があります(前回参照)。これらの判断においては、勝手な思いつきで決めてしまうのはとてもリスクがあります。国税庁もホームページなどでQ&Aも用意していますが、そこだけで解決しないこともあります。その場合は、お近くの税務署へ電話か窓口へ行き相談することができます。
さらに、税務署へ相談したからと言っても、税務調査を想定すると万全ではありません。こちらの状況を適切に相手に伝えられていない事もありますし、税務署の担当者の回答意図がしっかり理解できていないこともあります。そういった場合に備えるため、税理士や会計士などに相談し、自社に合った対策を一緒に考えていくとよいでしょう。



法律の変わり目はビジネスのチャンスです。法律を自ら守ることも大切ですが、きちんと理解して攻めに転じることすらできます。早めに手を打ち、ライバルに差をつけましょう。
■執筆者 上田智雄(うえだともお)
1975年生まれ。税理士。いっしょに税理士法人(渋谷区恵比寿)代表社員、デルソーレ・コンサルティング株式会社 代表取締役。主な監修本に、『納税で得する一覧表』、『取り戻せる税金一覧表』、『人生の節目の書類書き方教えます』(以上、サプライズBOOK)などがある。
●奉行EXPRESS 2017年冬号より [ →目次へ戻る ]