「元気!」組ビジネスリポート
働く者を輝かせ飛躍ののびしろを絶やさず
誰もがリーダーに、そして主人公になる社風
気泡の中にあるのは価値を創造し続けるヒント
ポリエチレンシートに規則的に並んだ、空気の入った直径1pほどの丸い粒。押すと「プチッ、プチッ」と音を立てながら潰れる梱包材――。誰もが手にしたことのあるこのくうきシートを、45年以上に渡って造り続けている会社があります。それが、愛知県名古屋市に本社を構える川上産業株式会社です。同社は2000年前後から、梱包材の枠に捉われないくうきシートの用途を提唱し、ユニークな商品を次々と世に送り出してきました。想像を超える商品を生み出す背景には、高い技術と、発想を湧き立てる同社の風土がありました。

川上産業株式会社
本社・本社営業所/〒453-0818 愛知県名古屋市中村区千成通2-50
TEL 052-483-1031 FAX 052-483-3351
代表取締役…川上肇 従業員数…463名(2013年5月現在)
営業所…11か所 工場…7か所

1968(昭和43)年創業。独自の技術で日本初となる国内産のくうきシート(同社商品名:プチプチ®)を製造。取り扱う商品は、梱包材のほか、内装材、コンテナ、保温材など幅広く、現在、国内シェアの半数を占める。2000年に8月8日が「プチプチ®の日」と認定され、翌01年には社内にプチプチ文化研究所を設立。プチプチ®の認知を広げるとともに、一般消費者向けの商品開発、包装の枠に捉われない様々な使い方や活用法の紹介・啓蒙を行っている。

プチプチSHOP®にて個人のお客様もプチプチグッズをご購入頂けます。
プチプチSHOP®本店
プチプチSHOP®楽天市場
プチプチ文化研究会
先見の明から初の国内産となるくうきシートを製造
「プチプチ®」への商品名の改名が転機に

 衝撃から壊れ物を守る包装材としてお馴染みのくうきシート。わかりやすく言うと、粒径約1cmの丸い気泡がたくさん並んだ、潰すと「プチッ」と音がするあのプチプチ®です。このシートを日本の技術で初めて国内生産したのが、1968(昭和43)年創業の川上産業株式会社です。技術者だった創業者の故・川上聰氏が、海外の情報にヒントを得てマシンを開発し、製造販売を開始しました。創業当時、壊れ物を包む材料と言えば、新聞紙、あるいは木材を糸状にした木毛が主流で、真新しすぎるくうきシートは受け入れられるまでに時間がかかりました。
 努力の末、くうきシートは徐々に浸透していきます。機械類の梱包材として、また、クッキーを詰め合わせた缶の中に入っている緩衝材としてなど、一般消費者が目にする機会も増えていきました。それに比例して、同社は付加価値のあるくうきシートを次々と開発していきます。積極的に環境改善する環境プチシリーズ、静電気対策を施した静電プチシリーズなど、機能性を持たせたプチプチを早くから世に送り出してきました。
 商品数が増えるにつれ、商品の認知度も向上。一般消費者の間では「使い終わった後にプチプチと潰すシート」として浸透し始めます。そこで同社はそれまでエア・バッグとして売り出していたくうきシートを「プチプチ®」に改名し、1994年に商標登録。そしてこれ以降、同社には様々な転機が訪れることとなったのです。

アプローチの矛先に一般コンシューマーを追加
幅広い声を吸い上げることで高まった開発力

 「転換期となったのは2000年頃です。大きなきっかけは3つあります」。
 同社の転換期と同時期に入社し、現在常務取締役、そしてプチプチ文化研究所の所長を兼任する杉山彩香氏は、同社の新しい可能性が生まれた当時を振り返ります。
 「転換のきっかけとなった一つ目は、8月8日にプチプチの日(日本記念日協会認定)が出来たことです。これを機にマスコミに取り上げられることも増えはじめ、一般の方への認知度が少しアップしました。二つ目は、プチプチ文化を収集・発信するようになり、一般の方との接点が増えはじめたことです。そして三つ目が、オンライン直営店のプチプチSHOPをオープンしたことです。ITサービスが発展したことでオークションが身近となり、個人間での取引も頻繁に行われるようになりました。オークションを利用する人が多くなるにつれ、物の梱包・発送も増えてくると、発送方法はわかっても、対象物の梱包方法がわからないといった声が上がるようになり、当社に問い合わせがくるケースが増えたのです。当時は、販売しているお店を紹介することしかできず、しかも、個人の方は少し使いたいだけなのに、それに対応する商品もありません。そこで、幅120cmの定番ロールからご家庭で使いやすいミシン目入りの卓上サイズロールや、ラッピングに最適なプチプチ®巾着袋など、直販も受け付ける体制を整え、個人の方にも使いやすいプチプチグッズの開発を行ってきました」(杉山氏)。

セクショナリズムのないフラットな位置関係
活発な横断型プロジェクトで話題の商品が誕生

 気泡を潰して遊ぶ専用玩具「プッチンスカット®」、気泡をハート型にした「はぁとぷち®」、プチプチ®を使ったステーショナリー(ペンケース、スマートフォンケース、名刺入れ、タブレットパソコンケース)など、同社には、プチプチ®の可能性を無限に、さらにわくわくさせる商品が並びます。商品化の実現は、高い技術力が支えとなっていることは間違いありません。片やアイデアが生まれやすい環境も重要です。
 「当社にはセクショナリズムがありません。社長をトップとした経営の組織図は当然ありますが、一方で、社員一人ひとりが主人公なので、手を挙げた人がリーダーになれる仕組みがあります。部署を横断するプロジェクトは社内に100以上あり、入社2〜3年目の社員が指揮を執るグループもいくつもあります。従業員数や拠点が増えると、社員間のコミュニケーションがとりにくくなってしまいますが、当社では社内専用ホームページを通じた社員同士の交流が盛んです。また、特徴的なのが、なるべく報告の中に実名を挙げるようにすることです。例えば、新しいプロジェクトが始動する時、そのオリジナルアイデアの発案者は誰で、どんなアイデアを出したのかといったように、きちんとみんなの前で評価します。部下の能力を引き出し輝かせるのは上司の役目です。社長自身がとてもユニークな人で、「そういう意見を言っていいんだ」と思わせることも、雰囲気を良くしている要素の一つです」(杉山氏)。
 原料市場に左右されやすい業界で、常に安定したシェアと右肩上がりの売上を維持する同社。意思決定と発想を形にする速さ、そして働く者を輝かせる社内の空気がプチプチ®に込められています。

●奉行EXPRESS 2014年冬号より [→目次へ戻る]