「元気!」組ビジネスリポート
■見えないところを鏡1枚で見える化、死角向け業務用ミラーで世界的な企業に。
 成功の秘訣は、徹底的な「使用者主義」
世界的な航空機メーカーであるボーイングやエアバスに製品を供給している中小企業があります。それがコミー株式会社(本社・埼玉県川口市)です。店舗や工場での“死角”を見える化し、防犯や安全、サービス向上につなげる業務用ミラーの開発・販売を専業としています。
中小企業のミラーがなぜ世界の空を飛ぶことができたのか。そのなぞを紐解くと、中小企業が国内外で成功する秘訣が見えてきます。

■コミー株式会社
本社・工場/埼玉県川口市並木1-5-13 TEL 048-250-5311
代表取締役…小宮山 栄 社員数…14名 URL:http://www.komy.co.jp/

創業1967年、設立1973年。死角を見るための各種業務用ミラーの企画・開発・製造・販売を手がけ、身近なATM・コンビニから航空機まで幅広い業界に『気くばりミラー』を供給。店舗や工場、乗り物などにおける安全・防犯・サービス・効率アップをサポートする。製品は、サイズの差異や特注品も入れると300種類以上の品揃えを誇る。国内シェアは8割強。代表取締役の小宮山氏は、「国際箸学会」の理事長も務め、本社には箸のショールームも構える。

顧客の示したヒントがビジネスの転機に。商売の答えはすべて“使用現場”にある

 埼玉県川口市発の世界的メーカー、コミー株式会社(以下、コミー)を率いるのは、代表取締役の小宮山栄氏。元々、大手部品メーカーに勤めていましたが、ライバル会社と品質的に差がない製品を売るために低価格化に終始する企業体質に疲弊し、就職して3年半で退職。数回職を変えた後、1967年に看板業を営む会社を設立しました。
ミラー  会社を興してから8年後、転機が訪れます。「何か世の中にない面白いものを作ってみよう」という遊び心から作った特殊なディスプレイ用のミラー。これは2つの凸面鏡を表裏に貼り合わせた円盤状の両面ミラーを天井から吊り下げてモーターで回転させるもので、展示会に出品したところ、あるスーパーマーケットから思いがけず30個もの注文を受けました。
「なぜ30個も?と思いつつ、納品後に現場を訪問したら、ディスプレイ用ではなく、店内に設置して万引防止のために使っていました。その使い方を見たことがヒントとなり、業務用ミラーに商売をシフト。これがコミーの原点となりました」と、小宮山氏は当時を振り返ります。
 自分たちが作った製品が思わぬ形で使用者の役に立っている――。このスーパーマーケットでの一連の経験は、その後のコミーのビジネス手法の土台となったのです。すなわちそれは、(1)自分たちでオリジナルな商品を作ってみる、(2)その商品を使ってもらう、(3)使われている現場に足を運び、どう役に立っているのか、問題はないのかを細かく聞く、(4)それを販売の際のマーケティング(カタログ作りなど)に活用する、というもの。また、実際に売れた後も、(3)を何度も繰り返し、その結果を製品の改良や新製品開発に反映させる、ということにも力を注ぎました。
「いずれの場合も、特にポイントとなるのが、実際に使っている現場を見て、使用者に話を聞くこと。よく企業ではCS(顧客満足度)が大切と言われますが、コミーでは、CSよりもUS(使用者満足度)を重要視しています。なぜなら、我々が作る製品は世界初のオリジナルなものなので、使った前例がない。どうやって使うのが正しいのか、誰もわからないし、我々にもわからない。だからUSこそが商売の源泉となります。この発想で、最も大切なことは、みんな使用者の方々に聞いてきました」(小宮山氏)。

世界のどこにもない業務用ミラーを発明。1997年にはボーイング社が正式採用

 スーパーマーケットに納入したミラーは、『回転ミラックス』という製品名で、国内外に販路を広げていき、東京都輸出優良商品にも選出され、海外でも高い評価を獲得しました。その一方で、「何か面白い、オリジナルなものを作る」ということにも注力していました。その結果、発明されたのが「FFミラー」。FFは「ファンタスティック・フラット」の頭文字をとったもので、表面がフラットなのに、広い視野を写し出せる特殊プラスチック製のミラーです。このミラーは発売以来、「東京発明展奨励賞」や「グッドデザイン賞」を受賞するなど、高く評価され、大きな反響を呼びました。
FFミラー  そして1996年、コミーに2度目の大きな転機が訪れます。それは、小宮山氏が飛行機の機内で上部に設置されている手荷物入れ(航空業界では「ビン」と呼ぶ)の中に目に留めたのがきっかけでした。手荷物入れには平面鏡が取り付けられていましたが、奥のほうまでは確認できないため「FFミラーなら見えるのに」と思った小宮山氏は、早速友人の紹介を通じて国内航空会社を訪問。そこで試験的にFFミラーをビンに設置し、客室乗務員に確認してもらったところ、反応は上々。本格的にビジネス化に向けて航空機用に試行錯誤で改良を加え、97年にボーイング社に正式採用されることになったのです。

使用者主義で発掘された思わぬ使い方。US向上の取り組みにより一層傾注

 現在では、航空機向けに累計9万5000枚以上のミラーを納入。エアバス社の最新鋭機A380の標準装備品を説明した資料には、三菱重工やブリヂストン、東レなど日本の名だたる大企業に肩を並べるようにして、「コミー/手荷物棚ミラー」と、社名と商品名が輝いています。
 ただしコミーは、こうして世界に進出を果たしてからも、原点を忘れず、航空業界への使用者主義を徹底していきます。その結果驚くべきことも判明しました。
「我々は手荷物棚ミラーを、客室乗務員や搭乗者が忘れ物をチェックするためだけに使っているとばかり思っていました。しかし、ヨーロッパの航空会社に詳しく聞いたところ、その主目的は、なんと爆弾のチェックだったのです。改めて使用者視点の大切さを実感しましたね」(小宮山氏)。
 その後も使用者から徹底的に話を聞き、搭乗者の利用が進んでいないことを知ると、その用途を伝えるために、ミラーの脇に「忘れ物をご確認ください」という文言をひと言添付。これを同社では「ポイントオブユース(使い方のポイント)」と名付け、今では、航空業界だけでなく、銀行のATMや地下鉄の通路、エレベーターなどに広げ、用途に合った使い方のポイントを入れるようにしています。使用者満足度を向上させる取り組みは、納品後もこうして、弛まなく続けられているのです。

競争せず、その分の時間を創造に充当。買ってくれた理由こそが企業の強み

 中小企業でありながら、これほどの成功を収めた秘訣はどこにあるのでしょうか。それはコミーの方針に見ることができます。
「まず、コミーは競争しません。そのエネルギーを創造に使うようにしています。競争すれば、疲弊するだけだし、大企業には太刀打ちできない。それに対し、世界のどこにもないオリジナル製品を創造すれば、ライバルもいないですし、多くの方からアドバイスをもらえます。この考え方がコミーの原動力になっています」(小宮山氏)。
 もちろん、そのために必要なことには怠けずに汗を流します。例えば、新しい人に会うこと、そこで相手から多くを聞くこと、それを商品や生産システムに反映させ、使用者の役に立つこと。
 さらに、お客様に聞くときのコツを小宮山氏はこう続けます。
「取引がなくなった相手に「なぜ買ってくれないのか」「なぜ取引を止めるのか」と聞いても、正確なところは教えてくれないかも知れません。それよりも、取引をしているお客様に「なぜ商品を買ってくれたのか」と質問してみる。良好な関係を保っている取引先であれば、正確な理由を教えてくれます。その理由こそが自社の強みです。弱みに目を向けるのではなく、強みに焦点を絞り込んでさらに強化する。これが、中小企業が活路を見出すポイントになるでしょう」。
 常に原点回帰の精神を持つこと。この思いを忘れず、コミーでは今後、航空業界からさらに領域を広げ、国内外の鉄道関係、病院関係にも、積極的に売り込みを計画中。更なる飛躍に期待がかかります。

●奉行EXPRESS 2010年春号より [→目次へ戻る]