この紙幣らしき印刷物は何か――。
物語は、ロシアの小都市ニコラエフスク・ナ・アムーレで大正7年と8年に流通した島田商会発行のルーブル札、通称「ピコラエヴィッチ」が発行された背景について、社会背景や政治情勢を交えながら経済的視点で描かれています。
島田商会は鮭鱒漁をはじめ、食料や衣料品などあらゆる生活物資を買い付けて輸出・販売する日本の民間貿易会社でした。戦争特需で財を成し、極寒の地ロシアの尼港でさらなる事業拡大を目指していた当時、ロシアの物価は日に日に上昇しルーブル札の価値は下落。市民はルーブル札を持っていても食料も衣服も買えない状態になっていきました。そうした中で「将来必ず島田商会の商品と換えられる保証書」が出回り始めたのです。それが「ピコラエヴィッチ」でした。
通貨下落と経済不安に比例して増すピコラエヴィッチの価値、ピコラエヴィッチの価値が上がるにつれ高まる日本人への憎悪、資本主義は悪だと唱えるロシア革命。混乱する社会情勢を背景に、人々の心理と経済の関わりや通貨が持つ意味について考えさせられる一冊です。
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