スキルアップメモ 2013年春号
■希望者全員を定年後も継続雇用する制度へ

経営労務

 急速な高齢化の進行に対応し、高年齢者が少なくとも年金受給開始年齢までは意欲と能力に応じて働き続けられる環境の整備を目的として、高年齢者雇用安定法の一部が改正されました。平成25年4月1日以後は、定年到達後の継続雇用の対象者を労使協定で限定できる仕組みが廃止されます。

■継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止
 従来は、65歳未満の定年を定めている事業主が継続雇用制度を導入する場合、継続雇用の対象者を限定する基準を労使協定で定めることができました。
 改正によりこの仕組みが廃止され、平成25年4月1日からは希望者全員が継続雇用制度の対象となります。

■継続雇用制度の対象者としないことができる者
 次の場合には継続雇用しないことを認める指針が出されています。ただし、継続雇用しないことについて客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められます。
心身の故障のため業務に耐えられない(労務提供ができない)。
勤務状況が著しく不良で従業員としての職責を果たし得ない(改善の見込がない)など、就業規則に定める解雇事由または退職事由に該当する。

■従来の「継続雇用の対象者の基準」を適用(経過措置)
 今回の改正は、65歳未満の者に対する老齢厚生年金の支給開始年齢が引き上げられることに伴うもので、年金が支給されない間は会社が雇用し、高年齢者の生活を安定させることを意図しています。
 したがって、生年月日に応じて定められた支給開始年齢に達した後は従来の基準を用い、基準を満たすもののみを継続雇用することが可能となります。
 なお、継続雇用の対象者の基準を定めた労使協定は、平成25年3月31日までに締結が済んでいることが条件で、それまでに協定を締結していない場合は経過措置が適用されないことに注意を要します。

■労使協定で定める基準
 基準の内容については、原則として労使に委ねられています。ただし、労使間で十分に協議して定められたものであっても、事業主が恣意的に継続雇用を排除しようとするなど法の趣旨や公序良俗に反するものは認められません。
 また、「会社が必要と認めた者に限る」「上司の推薦がある者に限る」などは基準がないことと等しく、法の趣旨に反するおそれがあります。
 意欲、能力等をできる限り具体的に測るもの(具体性)、必要とされる能力等が客観的に示されており、該当可能性を予見することができるものであること(客観性)を備えたものが望ましいと言えます。

■雇用形態、労働条件の変更
 継続雇用後は、高年齢者の安定した雇用を確保するという高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえたものであれば、嘱託・パートタイムなどの雇用形態、勤務日数、労働時間や賃金(例えば、月給制から日給、時給など)その他の諸条件を事業主と労働者の間で決めることができます。
 職務内容や責任の範囲を変えず極端に賃金を減額させた時はモチベーションの低下を招くことがありますので、職務内容等に見合った賃金設定を行うことが望ましいです。
 60歳到達時と比べ賃金額が75%未満に低下する場合は雇用継続給付(雇用保険)の受給可能性がありますので、各種給付金も上手に活用していきましょう。

■退職年齢の選択制
 退職年齢については、選択制を導入することも差し支えないとされています(厚生労働省Q&Aより)。
 例えば、55歳の時点で次の(1)または(2)のいずれかを労働者本人の自由意思により選択させるもの等が該当します。
(1)従前と同等の労働条件とし、60歳定年で退職。
(2)55歳以降の雇用形態を、65歳を上限とする1年更新の有期労働契約に変更し、55歳以降の労働条件を変更した上で、65歳まで働き続ける。

■労働条件が合意に至らなかったとき
 高年齢者雇用安定法が求めているのは継続雇用制度の導入であって、定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではありません。労働者と事業主との間で労働条件等についての合意に至らず、結果的に労働者が継続雇用を拒否した(退職)としても、高年齢者雇用安定法違反となるものではありません。

■継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大
 定年を迎えた高年齢者の継続雇用先を、自社だけでなくグループ内の他の会社(子会社や関連会社など)まで広げることができるようになりました。
 子会社とは、議決権の過半数を有しているなど支配力を及ぼしている企業であり、関連会社とは、議決権を20%以上有しているなど影響力を及ぼしている企業です。この場合、継続雇用についての事業主間の契約が必要になります。

■義務違反の企業に対する公表規定の導入
 高年齢者雇用確保措置を実施していない企業に対しては、労働局、ハローワークによる指導が行われます。
 指導後も改善がみられない企業に対しては、高年齢者雇用確保措置義務に関する勧告が行われ、法律違反が是正されない場合は企業名を公表されることがあります。