会計ひろば2
差別化が必要な時代。IT支援をその1つの核に
 現在ビジネス環境がより厳しさを増す中、企業にとって最も重要なことは何でしょうか――。私は何よりも他社と「差別化を図ること」と考えています。
 それは、会計事務所にとっても同じことです。私ども安田会計事務所は、東京都中央区で40年にわたり、主に中小企業を中心に税務に関する業務を提供しています。さらに、創業や起業を支援したり、税務以外の問題に対しても、提携する弁護士、司法書士、社会保険労務士を通じ、ワンストップで提供したりするなど、様々なサービスを展開しています。そして、今当所が最も力を入れて、他の会計事務所と明確に「差別化」できるサービスの1つが、「IT支援」です。
 IT支援は大きく、「会計文書の電子管理システムの構築支援」、「ベーパレス化支援」の2つに分かれます。
 前者に関して、当所がコンピューターを使った会計処理を始めたのが平成元年。当時、手書きでは伝票から元帳を作るのに3日、元帳から試算表を作るのに3日かかっていました。数字が合わないこともあり、その場合さらに日数を要していました。しかし、コンピューター化すると、その日数が大幅に短縮されました。今では、6日以上かかっていた作業がわずか半日で終わります。業務効率が飛躍的に向上したわけです。
会計ソフト導入を促す電子申告活用も強みに
 このスピード化、効率化のメリットを、中小企業の方々にも享受していただきたい。その想いで、既存・新規のお客様に会計ソフトの導入を薦めています。基本的に会計ソフトの種類の選定はお客様にお願いしています。もちろんお客様の規模や業種によって適切にアドバイス致します。
 例えば、初めてソフトを導入する小規模のお客様にはOBCグループのビズソフト株式会社の会計ソフトを、その後、企業規模が大きくなったときに、勘定奉行をはじめとする奉行シリーズへのシフトを促すなど、ステップごとに最適なソフトを薦め、その構築や運用を支援するようにしています。
 会計ソフトを導入するメリットは効率化だけではありません。そのソフトを使い込むことで、キャッシュフロー会計、すなわち会社の資金繰りが非常に的確に掴めるようになります。予定売上に基づく、資金繰り表も作成できます。すると、私どもとその表を見て、この先、この辺りの資金繰りが危ないから、その前に手当てしておきましょうと、予防線を張れるわけです。そうしたデータの加工、経営戦略立案も当所が徹底的にサポートします。
 また、国税・地方税の電子申告に強いのも当所の強みです。お客様の相談や活用支援にも対応しますし、私どもが代行して申告書を作成し、電子申告することも可能です。お客様はわざわざ税務署に足を運ぶ必要がなく、インターネット経由で申告書を送るだけ。実に簡単でスピーディーです。この電子申告も差別化の大きなポイントですね。今後は、この電子申告ができるか、できないかで会計事務所が線引きされるような時代になると思います。
ペーパーレス化で時短。超アナログで徹底支援
 もう1つのIT支援である「ペーパーレス化支援」も当所の特徴です。ペーパーレス化とは、簡単に言えば、企業に入ってくる情報・資料をすべて電子化すること。当所では、富士ゼロックスの「Docuworks」を導入し、ペーパーレス化を自ら実践しています。お客様から提供された紙資料などはスキャニングして電子ペーパーを作成し、それらを電子ファイルにまとめ、パソコン上の電子ロッカーに保管します。FAXも紙で出力することなく、パソコン上からダイレクトに送信できます。とにかく、紙を使わないわけです。
 メリットは、紙資源の無駄使いを防げること、机の上をスッキリと整理できること、そして、これが大きいのですが、書類を探す時間が大幅に短縮できることです。一般的に、企業の事務仕事の30%は書類探しに費やされていると言われています。月に換算すると、それは48時間、2日間にもなります。その時間が飛躍的に短縮できます。電子ロッカーに保管されている資料なら、検索して一瞬で見つけることができるのです。
 ペーパーレス化で新たに生み出された時間は、より重要な作業に振り分けられます。例えば、当所ではその時間をお客様へのサービスに充てています。具体的には、経営者から会社の状況や目標などをじっくりと聞くことや、それをベースに事業戦略や経営戦略の企画書を作ること。いわば、デジタル化で生み出された時間を、より深いコミュニケーションや戦略立案に充てるなど、アナログの時間に使っています。当所は「日本で最も文書のデジタル化が進んだ会計事務所」などといわれていますが、実は、本質的なサービスに関しては、超アナログなんです。
 超アナログの効用は大きいですよ。お客様と雑談も交えてじっくりと話ができるからこそ、その間にある溝も埋まっていく。ドライに対応していたら出ない話、例えば自分が本当に目指したい目標や理想、夢なども聞くことができる。その結果、その会社の本当の課題を見つけることができるし、その解決策も提示できる。
 ようするに、会計事務所も「人と人との密なコミュニケーション」が重要なんです。それができる1つの理由が、会計ソフトやペーパーレス化による業務の時短が実現しているからです。この「人と人」という超アナログスタイルも、当所の差別化につながっているといえます。
中小企業も電子化が急務。生まれた時間を差別化に使う
 こうした会計ソフトやペーパーレス化は、中小企業に積極的に活用してほしいですね。そして、私どもが取り組んでいるように、生まれた時間を「差別化」のために利用してほしい。今はモノが売れない時代になっているといわれます。特に部品メーカーなどは厳しいのが現状。しかし、いくら売れない、売れないといっても、完成品に対してどこかで部品を供給しているわけだから、チャンスがないわけではない。要は売れるところに注文が集中しているわけですね。
 売れるためのキーワードは、まさに「差別化」です。例えば、部品の種類を増やしてワンストップで提供したり、部品の付加価値を出したり、デリバリーの速さで勝負するなど、方策は考えられる。それを考え、実践する時間を、機械の力を借りて作ってほしいのです。
 安田会計事務所では、月1回、当所のペーパーレス化されたオフィスを公開する見学会を実施しています。毎回日本全国から多数の方々が訪れます。中小企業だけでなく、同業の会計事務所から税理士の方々も参加されています。整然とし、効率的に回っているオフィスを見て、自分の事務所のシステムを全て入れ替えて、同じようなペーパーレスオフィスに生まれ変わるケースも出てきています。当所と同じシステムにするなら330万円程度必要ですが、簡易な入門タイプなら約10万円からでも可能です。今後も見学会などを通じてご紹介し、中小企業や同業者に少しでも貢献できればと考えています。
Vol.12
2009年冬号
このコーナーでは、OBCのASOS会員である会計士・税理士といった、企業と必ず接点のある職業会計人の方を、現在のトピックを交えながら紹介していきます。
安田信彦
所長・税理士
安田 信彦
(やすだ のぶひこ)
安田会計事務所

●安田会計事務所

東京都中央区日本橋箱崎町32-7 DHビル3F
TEL:03-3667-1016 FAX:03-3666-7019
ホームページ:http://www.ysd21.com/

父である税理士・安田昭より平成11年4月13日に安田会計事務所を引き継ぎ、平成16年4月1日に現住所に移転。職員9名(税理士2名、その他は受験生)とともに、「お客様と事務所と職員の成長と繁栄を目指す」を経営理念とし、伝統の中に最新のペーパーレス化支援のノウハウを持つ会計事務所。税務会計・経営計画に留まらず内部統制を見据えたIT構築の提案も得意としている。また、様々な会計ソフトを扱える柔軟性も事務所の魅力となっている。

●奉行EXPRESS 2009年冬号より