“会計士は見た!!”決算書の裏側にある利益操作(4) −上場企業編−
会社名:株式会社プログレス・パートナーズ
投稿者名シニア・マネジャー(公認会計士):岩崎力也 

〜常識的にも、そして法律的にも「利益操作は経営者の責任」です〜
岩崎力也  
   
 
常識的にも、そして法律的にも「利益操作は経営者の責任」です

3回目で上場企業の利益の過大計上の動機とその手法をご紹介しましたが、それでは適正な決算をどのように確保したらよいでしょうか。 これに対し、金融商品取引法(旧“証券取引法”)は平成21年3月期から、経営者が自らの責任において、内部統制の整備・運用評価を行い、その責任を宣言することを法律的な義務として定めました。つまり、適正な財務報告に係る内部統制(JSOX)の導入です。

上場企業の経営者は自らの責任を宣言する−内部統制(JSOX)の究極の本質です−

粉飾決算が発覚したときに、経営者の言葉として「それは担当者が個人的にやったことだ」という判で押したような責任の転嫁が始まります。
しかしながら、実際の過去の事例では、粉飾の原因は経営者本人にあるケースが大部分であり、3回目での事例で取り上げた4社では、いずれも経営者本人が退任、あるいは、裁判で有罪の判決が下っています。
仮に経営者本人が粉飾を指示しなかったとしても、担当者が誤った会計処理を発見予防する組織体制を作る責任は経営者にあるのではないでしょうか。そもそも適正な財務報告は経営の中でも最重要事項であるというモラルを社内に浸透させる責任が経営者にあるのではないでしょうか。
そこで、経営者が、自らの責任で、適正な財務報告を確保するための内部統制を整備(後述)し、実際に機能しているかを評価し(後述)し、“内部統制報告書”という書面において、経営者本人が「財務報告に係る内部統制の整備及び運用の責任を有している旨」を宣誓し、自署し、自己の印を押すことが、法律的な義務として要請されることとなりました。
このように、経営者の責任を明確化すれば、責任を部下に転嫁することが困難になるため、経営者が利益操作を行う動機が減ることになるわけです。

内部統制を整備・運用評価する−平成20年夏、上場企業は利益操作予防のための組織整備を進めています−

新聞や雑誌でも“内部統制”なるものを見聞きしているかもしれませんが、まさに今現在、上場企業では、経営者が“内部統制報告書”にて自己の責任を表明するその根拠として、内部統制を整備し、実際に機能しているかを運用評価し、さらにその結果を証拠として保全する活動をしています。

(1) 内部統制の整備

具体的には、
会社としての誠実性及び倫理感を明確にする。
取締役会及び監査役による経営者に対する牽制機能を強化する。
各現場でのチェックアンドバランスについて再確認する。

などについて、社内の整備状況を確認し、未整備の部分は整備します。

(2) 内部統制の運用評価

具体的には、
貸倒引当金、繰延税金資産などは将来の見積もりの要素が大きく、しかも利益への影響は大きいのでリスクは高いのではないか?
業績の悪い部署、子会社は売上の架空計上の動機が働くのではないか?
海外子会社について、ほとんど現地に任せ切ってしまっているが、適切に組織的運営ができているか。現地のボスがワンマンで極めてリスクの高い取引を実施していないか。
販売子会社○○は営業成績は良いが、過度の実績主義に基づく能力査定を実施していることから、営業マンに押し込み販売の動機が働くようなことになっていないか?

など過去の経験、噂などの情報から損益が正しく計上されないリスクの高い子会社、部署あるいは取引を重点的に、質問やサンプルチェックの実施により検証します。

内部統制の整備・運用は、上場企業ならば当たり前のように思われるかと思います。実際多くの上場企業では、法律で改めて規制しなくても、普段の業務の中にすでに内部統制が整備・運用されているのが通常です。内部統制(JSOX)の新しい点は、経営者が自らの責任において内部統制を検証し、検証結果を証拠として保全し、“内部統制報告書”という書面で自らの責任を宣言し、公認会計士による監査を受ける点です。

中小企業と内部統制(JSOX)―内部統制(JSOX)の本質を知っておきましょう―

岩崎力也昨今何かと内部統制が喧伝されていますが、その本質は上記のとおり、極めてシンプルで常識的なものです。
中小企業にどの程度の対応が求められているかは、各社で対応が異なると思われますが、まずは、その本質を知っておきましょう。法律的には中小企業の自社には関係がないとも言えますが、将来的に取引先の上場企業から、内部統制対応の要請を受ける可能性は否定できないためです。
又、内部統制を前向きにとらえ、日常業務を見直すきっかけとすることもお勧めです。将来的に上場を目指すことになった時にもきっと役に立つものだと考えます。


 
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