“会計士は見た!!”決算書の裏側にある利益操作(3) −上場企業編−
会社名:株式会社プログレス・パートナーズ
投稿者名シニア・マネジャー(公認会計士):岩崎力也 

〜新聞紙面を賑わせる上場企業の利益操作〜
岩崎力也  
   
 
新聞紙面を賑わせる上場企業の利益操作

上場企業は、社会から広く資本を集めて、大規模な経営を行うために、株主と経営者が分離しています。会社情報の入手が限られる株主・投資家にとって会社が開示する決算書は投資するかどうかの意思決定を行う際の重要な資料となります。経済的実態を反映した適正な決算の開示と、それに基づく投資機会の保障は資本主義社会の根幹です。上場企業の利益操作は、多くの人の財産に影響するものであるため、新聞紙面を賑わせるのは全く当然のことです。カネボウやライブドアについては記憶に新しいところです。

上場企業で利益の過大計上を招く主な原因は・・・、
 (1)将来の見積もりの要素が大きい勘定科目
 (2)粉飾

が上げられます。

(1)将来の見積もりの要素が大きい勘定科目−利益は経営者の意見です−

利益は客観的な取引事実の記録だけではなく、経営者の将来に対する見通しからも強い影響を受けます。つまり、将来の業績予想、見積もりに関する判断が甘くなる結果として利益が過大に計上されやすい勘定科目があります。具体的には、引当金や繰延税金資産などです。 これが“利益は経営者の意見”と言われる理由です。  
銀行を例にとりますと、貸付先の状況、返済可能性をどのように考えるかによって、貸付金に対する貸倒引当金をいくら計上するかが決まるため、損益に大きなインパクトを与えることが想像できるかと思います。法人税法に規定された貸倒引当金の計上は経済的実態を反映しているとは考えられていません。銀行の社会的影響力の大きさから、貸倒引当金を十分に計上しているかどうかという技術的な会計処理の問題が、信用不安、小泉内閣時代の不良債権処理といった経済的、政治的問題につながっていたことはご記憶のとおりです。

(2)粉飾−問答無用の経済犯罪−

粉飾とは悪意に基づく利益操作であり、上場企業の場合、多くの人の財産を侵害する経済犯罪です。
上場企業については、組織が大きく、海外取引も含め取引数そのものが膨大で、会計監査を実施しても、取引内容を把握することさえ困難なことがあります。社外の取引先との共謀や、複雑な金融スキームを利用したり、手口も豊富です。一見すると会計基準に準拠して問題ないように見せながら、経済的実態は明らかに粉飾であり、投資家の意思決定を誤らしめる結果になっていることが特徴です。

【事例T】 ライブドア

 目的 新興企業として、増収増益を演出し、株価を上げ、株式交換で買収して企業規模を拡大するため。
 手法 実質支配下のファンドで計上した自社株の売却益は連結して資本剰余金とすべきであるのに、連結せずに売上に計上する。
 関与者
社長 その他取締役 会計士 が結託

【事例U】 メディア・リンクス

 目的 新興企業として、高い売上高成長率を演出するため
 手法 同業他社との共謀に基づく循環取引(実態のない売上高と仕入高の両建て計上)。
 関与者
社長 側近の幹部社員 が結託

事例Tライブドアや事例Uメディア・リンクスは新興企業であり、投資家に成長期待を持たせるため、利益よりも売上の成長を偽装することで、株価を高くしたいという動機が働いたようです。そのため、粉飾の手法も売上の過大計上となっています。

【事例V】 カネボウ

 目的 長期低迷状態にある会社存続のため
 手法 ・実質グループ子会社への架空売上計上、押し込み販売。押しつけた在庫は売却可能性がなくても評価減を実施しない。
・赤字グループ会社の連結外し
 関与者
社長 副社長 会計士 が結託


【事例IV】 日興コーディアル証券

 目的 社債の発行を円滑に進めるためと推測されているが、裁判になっていないため不明
 手法 約140億円の損失を抱える孫会社に該当するSPC(特別目的会社)の連結外し
 関与者 担当者が孫会社に該当するSPC(特別目的会社)の株式を保有する子会社の会計帳簿を意図的に改竄したためとのこと(経営者コメント)。


岩崎力也事例Vカネボウや事例IV 日興コーディアル証券は、信用維持のため、子会社やSPC(特別目的会社)に損失を押し付け、その事実を連結決算書に反映させないことで利益を過大に計上しています。これは親会社単体で利益を過大計上するより、社外からも社内からも発見されにくいと判断したためと思われます。

近年の有名な粉飾決算事件は上記のようになりますが、いずれも経営者の姿勢に原因の多くがあるように思われます。常識的に考えて、上場企業の決算を歪ませるほどの会計処理の誤りを1人の担当者が犯すことは極めて困難だと思われます。


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