“会計士は見た!!”決算書の裏側にある利益操作(2) −中小企業編−
会社名:株式会社プログレス・パートナーズ
投稿者名シニア・マネジャー(公認会計士):岩崎力也 

〜利益は信用力の指標〜
岩崎力也  
   
 
利益は信用力の指標

利益は会社の儲けを示し、信用力の指標として広く社会に認められているため、会社の信用に強い影響を及ぼしますし、利益はさらに次の利益をもたらす源泉となるでしょう。経営者にとっては、架空でもルール違反でも、とにかく利益を計上したいという動機が働きやすいと思われます。

動機A 金融機関や取引先から会社を守りたい

取引金融機関や債権者への決算説明のために赤字は困るという場合があるかと思います。本業の業績が芳しくなく、複数事業年度にわたって決算書の数値が悪ければ、返済要請、金利の引き上げ、担保の追加、保証人の追加などの対応を銀行から迫られる可能性があります。債権者も債権の回収期間を短くするなどの対応をとるかもしれません。これらの事業存続リスクが高まることを防ぐために、利益の過大計上の動機が働くことがあります。

覚えていますか“貸し渋り”“貸し剥がし”

数年前の話になりますが、金融機関が貸付先について自己査定なるものを行い、貸付先を“正常先”“要注意先”“破綻懸念先”“破綻先”などと格付けを行い、“貸し渋り”“貸し剥がし”が社会問題となっていたことを覚えていますか?もちろん今も金融機関は自己査定を行っていますが、その際、金融機関は概ね下記の視点で決算書の検討を行うようにしているわけです。

決算書7つのチェックポイント


実は債務超過でした

中小企業の場合、社外(子会社、取引先、その他金融技術等)を利用した複雑な粉飾を行われるケースは比較的少ないように思います。会社の規模も大きくはなく、決算書も調査しやすいため、上記の7つの視点で決算書を検討すれば、かなりの頻度で、修正すべき事項が発見されます。帳簿上の純資産はプラスであるものの、経済的実態は債務超過でしたということも珍しくありません。この場合、当然、自己査定の結果は厳しいものとなります。金融機関自身の経営が危ういときは、たとえ借入契約を守っていても“貸し渋り”“貸し剥がし”の憂き目にあうかもしれません。
但し、税務申告では、評価損や引当金の計上は、別表で加算申告せざるを得ないことが多いと思われます。税法は課税の公平性を確保することが目的であり、決算書が適正かどうかには関心がないためです。そこで、近年は中小企業も「中小企業の会計に関する指針」などの実務指針に準拠して適正な計算書類を作成しようという動きもあり、今後この動きは広がっていくと思われます。

動機B 目先の売上報奨金が欲しい

岩崎力也筆者が会計監査の業務で、某販売会社の監査を実施した際、「一定数量以上を売却すれば、仕入先から報奨金をもらえる」という動機があったため、本来、出荷時に売上を計上すべき社内ルールであるにも関わらず、3月末に獲得した契約について、未出荷の売上処理を行い、報奨金を入手するケースがありました。  
会計監査に従事する立場から、売上の計上方法が順守されていない旨を指摘したのですが、修正には応じてもらえず、逆に「それでは報奨金はあなたが払ってくれるのか」と言われたしまったことがあります。  
特にイケイケで元気のある会社は、利益のためなら、ちょっとくらいのルール違反は当たり前というようなこともあるため、現場の会計士としては目を光らせています。「この会社は売上報奨金を欲しがっている。だから押し込み販売をしている可能性が高い。従って3月計上の売上取引記録を重点的に精査する」と…。

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