スキルアップメモ 2017年冬号
■アウトソーシングによる経営改革
経営
企業が成長していくためには、新しいことに次々とチャレンジしていくことが求められます。場合によっては、必要な人材を継続的に増やしていくことも考えなくてはなりません。しかし、その場限りの成り行きで人材採用を進めてしまうと、業務機能が増えて肥大化し、結果的に経営を圧迫する要因にもなってしまいます。そこで採り入れたいのが「アウトソーシング」です。

先進企業ではアウトソーシングが主流
高度成長期、企業は人材を中心に多くの経営資源を内部に持ち、全ての業務を自社でこなしていく傾向にありました。しかし、現代になると事情は変わり、自社に経営資源を抱え込むことがリスクとなりかねない状況が多く発生、このような状態が続いていけば、自社の強みがぼやけてしまい、とてつもないスピードと低コストで打ち出してくる競合企業に太刀打ちできなくなる事態を引き起こします。
このような事態を避けるため、アメリカの先進企業を中心に、経営資源を必要最低限に抑える「持たざる経営」が加速、アウトソーシングなどで経営効率を高める体制が主流となりました。日本でも企業間の競争が激しくなっていく中で、アウトソーシングは重要な経営要素のひとつとなっています。
アウトソーシングとは、外部(アウト)から経営資源(ソース)を調達(ソーシング)することを意味しますが、ここでの経営資源は主に人的資源を指し、外部の人やそこに付随するマンパワーや専門性などです。特に経理や税務業務は反復業務が多く専門性が高いことから、アウトソーシングに適している分野と言われています。

アウトソーシングのメリット
経営戦略において採り入れるべきアウトソーシングの主な3つの利点を挙げてみましょう。
●メリット1 経営・業務のスピードや品質の向上
自社に足りないリソースを補てんするためには、適切な人材を採用して教育する等の投資が必要であり、時間もかかります。これをアウトソースすることで、必要な時に必要なだけ最新情報とスキルを備えた人材を調達することができます。
●メリット2 コスト削減効果
アウトソーシング先では同様の業務をまとめて行っていくので、業務を自社で行うよりもはるかに効率的に行ってくれます。アウトソーシング先は自社で自由に選べるので、比較によって自社に最適な価格とサービスを選ぶことができます。
●メリット3 コア業務に経営資源を集中投下できる
専門外の業務を無理に自社で行う必要がなく、非コア業務部分をアウトソースすることができるので、コア業務に人的資源を重点的に投じることができます。その結果、競争力の強化を図ることができます。

アウトソーシングのグローバル化
アウトソーシング分野でも「グローバル調達」が進んでいます。大企業を中心に2000年代前半からより安い賃金を求めて「世界の工場」である中国へ、製造分野だけでなく経理業務のアウトソーシングも行われてきました。現地で優秀なスタッフを教育し、給与計算や経費精算、支払準備や会計処理などを中国現地で処理するようにしたのです。ただし、近年では中国での人件費やインフラにかかるコストの高騰で、スケールが期待できるボリュームでなければコストメリットが出せなくなっており、次なるアウトソーシング先としてベトナムやミャンマーなど、中国よりもやすい賃金でアウトソースできる地域への代替先を模索する動きが活発です。
しかし、こうした新興国での労働者は、企業への忠誠心が薄い傾向にあり、教育をしてキャリアを積ませても、他社から好条件を提示されればすぐにでも転職してしまうことも多く、教育コストの回収面で問題があると言われているため、検討に際しては十分な調査や条件の提示が必要です。

最近では、「クラウドソーシング」というオンラインを通じたアウトソーシングによる新しいワークスタイルも始まっています。クラウドソーシングとは、インターネットを介して不特定多数の人に業務を委託することで、実際に会う手間もなく、インターネット上で仕事の業務連絡をしながら仕事を遂行・完了できます。この手法により、全国の有資格者に会計業務をプロジェクト単位で依頼したり、限られた時間でしか働けない主婦などに仕事を依頼することもできるようになります。アウトソーシングを上手く使いこなし、ビジネスの先手を打つ経営戦略が今後不可欠になっていくことは間違いありません。
[執筆者]
いっしょに会計事務所
上田 智雄(うえだ ともお)
1975年生まれ。税理士。いっしょに税理士法人(渋谷区恵比寿)代表社員、デルソーレ・コンサルティング株式会社 代表取締役。主な監修本に、『納税で得する一覧表』、『取り戻せる税金一覧表』、『人生の節目の書類書き方教えます』(以上、サプライズBOOK)などがある。