ASOSのひろば
マイナンバーは漏えい防止対策が鍵
安全管理措置の徹底が最大の課題
 最初に皆さんが今最も関心があるマイナンバー制度について、重要なポイントをお伝えしたいと思います。現在、社会保険労務士法人あかつきでは、マイナンバー制度に関連したセミナーやコンサルティングを提供し、大手から中堅、中小まであらゆる規模の企業を側面から支援しています。
 今年10月からマイナンバー(個人番号)が国民に通知されましたが、来年1月からは国税関係(扶養控除申告書関係、源泉徴収票の発行)、労働保険(雇用保険など)で利用が開始されます。2017年1月から開始予定だった社会保険(年金番号との連結など)は延期の方向で調整されていますが、いずれ利用が始まり、将来的には個人の銀行口座とも紐付く予定です。
 企業側が最も注意しなければならないことは、従業員から取得するマイナンバーの漏えい防止対策です。従来の個人情報保護法における「個人情報」と、今回発番されるマイナンバーを合わせて「特定個人情報」と呼ばれますが、この特定個人情報を検索できるようにパソコン等に保存すると「特定個人情報ファイル」となります。この特定個人情報ファイルの取扱いが、漏えい防止対策の最も重要な鍵です。このファイルを正当な理由なく提供すると、「4年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金または併科」という重い罰則が科せられることもあります。
 マイナンバー法で企業が漏えい防止のために実施しなければならない措置として定められているのが、「安全管理措置」です。具体的には「組織的安全管理措置」(取扱い規定等に基づく運用、情報漏えい等の事故発生に備えた体制の整備など)、「人的安全管理措置」(事務の取扱い担当者の監督と教育など)、「物理的安全管理措置」(パソコンや電子データ、書類の紛失・盗難防止措置など)、「技術的安全管理措置」(外部からの不正アクセスの防止対策など)の4つの措置を講じることが求められています。
 ただし、中小規模事業者(従業員数100人以下)は取扱うマイナンバーが少ないため、安全管理措置の緩和的対応が認められています。しかし中小企業と言えども、漏えいという最悪の事態を招かないためには、できる限り安全管理のレベルを高めることが重要です。
アウトソーシングが有効
「自社で持たない」が安全
 マイナンバーの管理に関しては、大きく2つの方法に分かれます。1つは自己完結型です。自社で様々な安全管理措置を施して、安全な運用、漏えい防止対策を講じていきます。もう1つはアウトソーシング型です。自社で安全管理のレベルを高めることは知識や技術面で困難な場合もあり、将来的に担当者が退社してしまった場合の継承も課題として残ります。
 リスクを回避するためには、例えばOBCが提供する、従業員や個人取引先の個人番号を安全に収集・保管するクラウドサービスを利用するなど、アウトソーシング型の管理は有効と言え、特にマイナンバー法で厳格な安全管理措置が要求されている従業員100人を超える中堅企業は、アウトソーシング型を強く推奨します。マイナンバーの管理を委託された社労士事務所や税理士事務所も、リスク回避のためにアウトソーシングサービスを利用することが得策でしょう。アウトソーシング型を選べば、企業が講じなければならない安全管理措置は、実質的に従業員に対する監督・指導だけになり、負担が大幅に軽減されることも大きなメリットです。
 マイナンバーの運用や管理では、ITの活用が前提であることも留意すべきポイントです。仮に紙ベースで管理する場合、記録や転記した紙をなくしてしまったりするなど、事故が発生する危険があります。なおかつ自社で番号を保管せず、先進的なITの仕組みであるクラウドサービスを利用した管理が理想的です。つまり、「電子化」と「自社で持たないこと」が最も安全な道と言えるでしょう。
義務化されるストレスチェック
代行サービスの活用も視野に
 今年12月から事業者に義務化される「ストレスチェック」も、企業における喫緊の課題です。ストレスチェックとは従業員の心理的負担の原因や心身の自覚症状、他の従業員の支援などの事項について、1年に1回以上、定期的に事業者の検査を義務付ける制度です。健康診断との同時実施が想定され、検査結果は検査を実施した医師や保健師から直接本人に通知されます。本人から申し出があった場合、事業者は医師による面接指導を実施することが義務付けられ、申し出を理由とする不利益な取扱いは禁止となり、さらに面接指導の結果に基づき、必要な就業上の措置を取ることも義務付けられています。
 従業員数50人以上の企業は義務、50人未満の企業は努力義務となっています。50人以上の企業は、もともと安全衛生委員会と産業医の設置が義務付けられているため、建前上はストレスチェックを実施する準備体制が整っていますが、従来はその体制が適正に稼動していない場合が少なくないのも実情です。改めて体制を点検し、実質稼動できるように再整備することが重要なのです。
 50人未満の企業は努力義務ですが、メンタルヘルスの不調を訴える人の急増が放置できないほど社会問題化する中、実施は不可欠と言えます。厚労省がインターネット上で提供している「ストレスセルフチェック」や、ストレスチェックの代行業者(OBCが提供するストレスチェックサービスなど)を活用することも視野に入れてよいでしょう。
労務監査も含めた組織作りを支援
中小企業の海外進出もバックアップ
 当所では中長期的には労務監査にも力を入れていきます。労務監査とは労働基準法や労働安全衛生法が守られているか、社会保険が適正になされているかなどを第三者の立場から評価し、改善を促すサービスです。ただし、労務管理の問題は、経営者が自覚しているケースが大半です。その問題点をあからさまに指摘されるサービスに対して、インセンティブが働かないと言うのが現実でしょう。
 その点を考慮し、当所ではまずは組織運営が適正になされているかを人材面から評価する「人材ポートフォリオ」というサービスを提供しています。人材の育成や人事考課、要因管理、従業員満足度などの状況を、給与奉行のデータなどを活用しながら、いわば「労務諸表」として数値化してまとめ、分析した結果を基に改善点を提案する組織活性化コンサルティングです。その中には労務管理上の問題の改善ももちろん含まれます。こうして労務監査にとどまらず、組織作り支援としてパッケージ化することによって、企業のインセンティブが働きやすいサービスとなっています。社労士の従来のメイン業務である手続き関連の事務処理に代わる新たな事業の柱として、このサービスを展開していきたいと思っています。
 一方で、中国や東南アジアに進出する中小企業の海外進出支援にも取り組んでいます。大企業はコンサルティング会社と契約して進出リスクを管理できますが、中小企業はそこまで手が回りません。労働トラブルが懸念される中、当所のネットワークを活用した国際労務管理サービスを提供し、中小企業のリスク管理に尽力できればと考えています。
Vol.39
2015年秋号
「ASOSのひろば」では、OBCが運営・管理するパートナー制度に加入するプロフェッショナルが登場! 自慢のサービスを紹介しながら、人事労務に関するトピックスを語っていただきます。

>小前和男氏
代表社員・所長・特定社会保険労務士
小前 和男
(こまえ かずお)
1951年、兵庫県生まれ。高崎経済大学卒業後、郵便局(現日本郵政グループ)に勤務し、在職中に社会保険労務士の資格を取得。82年に31歳で独立し、小前事務所を開設した。2005年の法人化に伴って代表社員に就任し、10年に社会保険労務士法人あかつきに名称を変更。法人化と同時期に上場企業の業務の受託が増加し、事業所の業容拡大が加速した。

社会保険労務士法人あかつき

●社会保険労務士法人あかつき

東京都渋谷区千駄ヶ谷5-23-5 代々木イーストビル6F
TEL:03-5357-7510

社会保険・労働保険手続き、給与計算の受託、就業規則作成、人事・賃金体系の企画立案、労務監査の実施、社員教育など人事・労務に関連した様々なアウトソーシングサービスを提供し、顧客数は約300社を数える。従業員数は約40名(うち社会保険労務士は26名)。近年注力している分野は、経営労務監査や社員教育を中心とする組織作りのコンサルティング業務。公認会計士や税理士、弁護士など他の専門家集団とのネットワークにより、業務改善やシステム構築・導入のコーディネートまで一貫した受託が可能。

●奉行EXPRESS 2015年秋号より