会計ひろば2
経営者の真の要望は経営支援
経済実態を把握し問題を示す
 経営環境が劇的に変化する中で、中小企業の経営者の方々が会計事務所に求めていることは何でしょうか。専門領域である会計や税務と思われるでしょう。しかし、それは役割の一つに過ぎないと考えています。本質的には、「企業を存続させるための支援」、「会社をより発展させるための支援」など、「経営支援」こそが経営者の要望ではないでしょうか。つばさ会計事務所では、こうした経営者の方々の真のニーズに対し、会計・税務や組織再編、資金調達、給与計算、独立・開業支援といったメニューを使って、徹底的にサポートするというスタンスでサービスを展開しています。
 経営支援のためには、顧客の「経済実態の把握」が鍵を握ります。その会社はどのような形でお金が入ってきて、どういうことでどこにお金が出ていくのか。単に数字を見るだけでなく、その数字の理由や背景にまで踏み込んで、お金のまわり方を把握します。そうすることで、顧客と同じ目線で会計を見ることができるようになり、問題や課題が浮き彫りになってきます。
 また、「達成すべき目標と実績」、「昨年に比べた場合の今年の伸び率」を見ることもとても重要です。例えば、単純な想定ですが、達成すべき目標が売上げ2億円だった場合、半期が終わった時点で1億円に達していれば進捗率は50%で一見順調に思われます。しかし、経費を見ると、消化率が70%。予算内での目標達成が危うい状況となり、理由や背景を見ながら、残り半期の予算を考え直すという課題が明確になってくるのです。
3か月後のキャッシュは充分?
常にアラームを鳴らし続ける
 資金繰りを知ることは経済実態の把握には不可欠です。資金繰りに困っている会社はもちろん、資金に余裕のある会社の経営者に対しても必ず、「3か月後のキャッシュが概ねいくらあるか掴んでいますか」と聞いています。資金繰りで頭がいっぱいの会社が全力で営業活動をできないのは明らかです。経営者が第一にやるべきことは本業に全力で取り組むことなのです。3か月後のキャッシュに問題が無いと認識している経営者は、安心して営業に専念できますから、資金繰りに困っている会社様が当所に相談にいらしたときは、税務会計は一旦無視です(笑)。3ヵ月後のキャッシュポジションをできるだけ正確に把握し、苦しければそれをどうしたら乗り越えられるかを考え、何らかの方法で解決できるという道筋ができたら、全力で営業活動に専念していただき、税務会計はそれからです。これも、資金繰りが厳しかったり、営業に専念できなかったりする理由や背景を探り、問題や課題の解決に導く、経営支援のアプローチの一つです。
 さらに、より経済実態を深く知るためには、顧客を定期的に訪問することも重要です。例えば小規模な顧客は、原始証憑(領収書や請求書など)や出納帳を出してもらい、当所が勘定奉行などで仕訳入力することもあります。その際は書類を郵送してもらうのではなく、所員がノートパソコンを持って訪問し、その場で社長とやり取りしながら作業するようにしています。一つは効率的だということ、そしてもう一つが現場に行くと、実際の業務内容や会社の雰囲気、社員数、男女比、働き方など、帳簿からは見えてこない顧客の経済実態が明らかになるからです。
 このように、私たちの考える経営支援の本質は経済実態を確実に把握することです。そして、問題や課題を発見するたびに、経営者の方に「アラーム」を鳴らし続けることが、私たちの役割だと考えています。
組織再編はビジョンの浸透が鍵
奉行シリーズは営業活動に有効
 経営支援の一環として、組織再編を支援するケースもあります。組織再編は、グループ会社の合併や人員の整理などにより、組織をスリム化することが主な目的となる場合が多いのですが、そもそも社員は現状が変わることに抵抗があるため、理解してもらうことが何よりも大切です。つまり、社長が明確なビジョンを示して、その想いをどこまで浸透できるかがキーポイントとなります。税務会計業界では、組織再編は難解な案件だと言われますが、それは法律や技術の部分ではなく、社長のビジョンの提示とその浸透こそが最も難しいということに由来しています。
 私たちが組織再編に携わるときは、「なぜ合併するのか」、「なぜ人員整理が必要なのか」、「なぜ組織を新しくするのか」といった理由や目的を、経営者の方と突き詰めて考えそれらをビジョンに落とし込み、社員の方々と共有するプロセスもサポートします。
 一方で、業務支援として、会計ソフトなどITの導入をお手伝いすることもあります。ITの導入の本質は「時間とコストの交換」です。導入コストはかかりますが、会計を例にとれば、手作業よりソフトを使ったほうが格段に速く、正確です。またシームレスに連携されたソフトを使えば、データを写したりする際のミスが介在する余地が少なくなり、チェックする手間も省くことができます。特に奉行シリーズは、メリットが大きい業務ソフトです。理由はその汎用性の高さ。具体的には、データが加工しやすい点が挙げられ、例えば、財務のデータを営業部門が使いたい場合は、今月の売上に計上できる可能性のある受注案件の一覧データを、簡単に出力して分析することが可能です。営業部では、進捗に応じて、A、B、C、強化案件に分け、A、Bは達成可能、Cは注意してみる必要がある、強化案件は、注力しないと上がらないといった分析資料を作り、営業戦略を練る際の参考にできます。ほかにも営業支援や経営支援という観点で、利用価値は非常に高いと思います。また、奉行シリーズは、従来のオフコンと異なり、リーズナブルに導入できる点も魅力でしょう。
従業員問題で悩む経営者は多数
定着率向上のためのポイントは?
 中小企業が抱える悩みといえば、売上と従業員の悩みがほぼ9割を占めるのではないでしょうか。当所では、売上に関しては予実管理等を中心にアラームを鳴らしてサポートしますが、従業員に関してもよく相談を受けるので、経営支援の視点から、私なりに助言をすることもあります。それは、単純ですが、「できるだけ長く勤めてもらうこと」だと思います。
 人材というのは、入社して半年は充分な戦力にはならないものです。逆に1年2年と一緒に仕事をするうちに、最初では考えられなかった能力を発揮してくれることが多くあります。入れ替わりの激しい組織は一見とても優秀な人材が入ったとしても引き継ぎ等の期間のコストは2倍になりますし、関係者への信用も落ちます。すなわち、戦力ダウンが続くと同時に、コストがかかり続けることになります。
 ではどうすれば少しでも長く会社のために力になってくれるのか? それは、社長や責任者が、各従業員の話をよく聞き、逆に自身の考えも明確に話すこと、これを継続する以外にないと思います。経営者は従業員各々の希望を理解したうえで、目標を設定し、各々の仕事や存在が会社にとって本当に重要であることを従業員と共有し続けなければならないと考えます。こうしたいわゆるコミュニケーションを充分に図っていれば、極端に定着率の低い組織にはならないはずです。
 ところで、当所でも特に長く働く従業員が4人いますが、4人はいずれも担当する顧客企業から、「当社で常駐で働いてもらえないか」と打診を受けたことがあります。実際当所はアウトソーサーとしての会計事務所ですので、常駐派遣は難しいのが現状ですが、顧客に最も近く信頼された、いわば「専門家以上の存在」になることを目標にしているので、本当に信頼されている証しでうれしいことです。今後も、経験や知恵を持つ人材を増やし、今まで以上にクライアントに信頼される体制を整えていきます。
Vol.22
2011年夏号
このコーナーでは、OBCのASOS会員である会計士・税理士といった、企業と必ず接点のある職業会計人の方を、現在のトピックを交えながら紹介していきます。
>井上 孝史氏
代表取締役・税理士
井上 孝史氏
(いのうえ たかし)
1975年生まれ。98年3月早稲田大学法学部卒業後、大手総合商社を経て、税理士事務所に勤務。中小企業から上場企業まで、税務会計を担当する。2004年に税理士登録し、翌年共同事務所を立ち上げる。10年1月には独立し「つばさ会計事務所」を設立。得意とするのは、組織再編を絡めた経営支援。趣味は旅行、食べ歩き、航空機。
つばさ会計事務所

●つばさ会計事務所

住所:東京都中央区日本橋茅場町2-4-5 茅場町二丁目ビル9階
TEL:03-3668-7272
ホームページ:http://www.tsubasa-tax.co.jp/

2010年1月に現在代表取締役を務める井上孝史氏が独立して設立。税務会計の専門家集団として、税務、会計、給与計算のアウトソーシングから、M&A、組織再編、株式公開、資金調達まで、幅広いサービスで顧客を支援する。スタッフは井上氏も含め8名。100社程の顧客を持ち、販売会社、メーカー、医療法人、上場企業など、支援先の業種や規模は幅広い。事務所経営のスタンスとして、税務会計の専門家であることはもちろんのこと、アウトソーサーとして顧客に最も近く、信頼され、何か困ったことがあれば真っ先に声をかけてもらえるような、いわば「専門家以上の存在」になることを常に目指す。

●奉行EXPRESS 2011年夏号より