会計ひろば2
改正会社法施行で中小企業も健全・正確な決算書が必要に
 「会計参与制度」というものをご存知でしょうか? これは2006年5月に新設された制度で、会計参与とは、企業の取締役と共同で決算書を作成する税理士や公認会計士を指します。従来の税理士や公認会計士は外部の人間ですが、会計参与は企業の役員として内部の立場の人間になることが特徴です。実務の中で浮かびあがってきた主な職域は、@中小企業の会計指針に準拠し、会社法が求める適法な決算書を作成すること、A会社法が求める決算書等の開示をすること、B役員として経営数値を駆使し経営をサポートすること、の3つです。
 そもそもこの制度は同年4月の改正会社法施行にともなって、創設されました。改正のポイントの1つは、中堅・中小企業の信用創造を強化すること。そのためには、信用の源泉である決算書の健全性と正確性を大幅に向上させる必要があります。従来の決算書は、多くの中堅・中小企業にとって「税の申告のために作る」という位置付けであり、それでは旧商法が定める決算書の要件を満たしていないからです。さらに厳密に見れば、法律に反する疑いがある状態が戦後60年間ずっと続いてきたともいえます。
 今回の改正会社法では、その慣習を見直し、法律の要件を満たす決算書の作成や開示を改めて義務付けました。法律違反となれば、100万円以下の過料という罰則も設けられています。皆さん、事の重大さにまだお気づきでないかもしれませんが、法治国家であるわが国ですからいずれこの法律が徹底され、対応せざるを得ない状況になることが予想されます。
創設された会計参与制度普及のため支援センター設立
 さて、法律により、決算書をきちんと作り、しっかり開示するというルールはできましたが、その実際の運用をどうするのかということが、次の課題です。そこで生まれたのが会計参与制度。狙いは言うまでもなく、中堅・中小企業での適切な決算書の作成を促進することです。
 しかし、フタを開けてみればどうでしょう。現実にはそのなり手が極端に少なかった。その理由は、税理士や会計士の間で、「会計参与は荷が重い」という思い込みが、一人歩きしてしまったことです。中堅・中小企業できちんとした決算書を作り、役員としてサポートすることは、経営全般に関わることに他ならない。しかし、税理士も会計士もそうした経験に乏しく、踏み込むことに及び腰になってしまった。これが実情ではないかと思います。
 どうにかそうした現状を打破できないか。私たちは思案の末、会計参与支援センターを設立し、会計参与になるための業務手続の整備とそれを元にした支援、セミナーや相談会による会計参与の育成、会計参与に就任したい人材と必要とする中堅・中小企業とをマッチングさせる仕組みの整備などを進めてきました。2008年11月にはNPO法人として登録、認証され、登記もなされ、公益性の高い事業として現在推進しています。
会計参与導入のメリットは、決算書・融資獲得・数値経営
 では、会計参与を役員として置くことの中堅・中小企業のメリットは何でしょうか。私は3つあると考えます。1番目はいうまでもなく、会社法が求める健全で正確な決算書の作成が可能となることです。将来的に厳格な法律の適用が始まっても、問題なくクリアすることができます。2番目がその決算書によって、銀行や取引先からの信頼が向上することです。特に銀行に対しては、個人保証や担保による融資ではなく、決算書からの判断による融資を受けられる可能性が高くなります。実際、会計参与を設置している会社の決算書は、作成に会計のプロが関わったとして信頼性が高くなり、大手銀行や地方銀行、信用金庫などが優遇金利による融資をするケースも増えています。また、多くの中小企業が利用する信用保証協会の保証料が0.1%減免されるという特典もあります。
 そして3番目が、決算書を活用した会計参与による経営のコンサルティングが受けられることです。きちんと作成された決算書は経営に役立つデータの宝庫です。これを数値のプロである会計参与が分析し、売上げや利益向上、コスト削減のための的確な指導やアドバイスをするわけです。しかも、会計参与は役員なので、ある意味で企業と運命共同体です。内部の人間として経営にともに取り組むことになります。このメリットは非常に大きいです。
 実際に具体的な事例も出始めています。ある地方でのケースですが、20年近く顧問税理士を務めていた会社の会計参与となった瞬間に、その会社の社長から「今度の取締役会に出て、債権管理や棚卸資産の管理について役員を指導してほしい」と頼まれたそうです。内部の人間となってはじめて、社長も本当に相談したいことを口に出したのでしょう。これこそが、会計参与の目指す姿といえます。今はこうした事例が続々と報告されています。
不況で脚光を浴びる会計参与。成長を目指す経営者は活用を
 今は景気後退期となり、世界に不況の波が押し寄せている状況です。金融機関は融資に慎重になるどころか、回収に走っているケースも多々あるようです。それも中堅・中小企業に限らず、大企業に対してもそうした姿勢ですね。こうなると、中堅・中小企業はますます融資が受けるのが厳しくなってきます。
 こうした時代だからこそ、会計参与の役割が脚光を浴びてくると思います。会計参与によって作られた中堅・中小企業の決算書は、会社法に従った適法なものですから、銀行にとってはじめて信用できるものとなるわけです。そのうえ会計参与は役員ですから、もし虚偽の記載などがあれば、他の役員と同様に損害賠償の対象となります。それだけ責任を持って作るものなので、さらに信頼性は担保されます。従って、厳しい融資条件をクリアする可能性がより高くなります。
 また、会計参与が提供する数値経営を縦横に駆使するマネジメントの考え方は、成長を目指すベンチャー企業や中堅・中小企業の経営者にとって、不可欠なものです。例えるなら、ジャンボジェットのように計器(数値)を見ながらの飛行(経営)が必要ということです。この際、勘定奉行などを活用して自社の経営の現状を数値で明らかにし、会計参与と経営者が一緒になって、課題と解決策を分析し対策を講ずることにチャレンジして頂きたいですね。
 この計器飛行をしないで、単に規模だけを拡大し続ければ、いつか破綻してしまう危険性が高いのです。実は、株式上場(IPO)を成し遂げる企業は、すべてこの「数値で経営をマネジメントする」という壁を突破しているんです。これは20年以上IPOのお手伝いをしてきた私の経験から断言できます。
 会計参与支援センター主催のセミナーや勉強会では、当初は「適切な決算書を作ること」に主眼を置いてきました。しかし、それはあくまで入口の部分。問題は経営数値に代表されるデータの使い方です。設立から3年が経ち、現在はこの「決算書を使うこと」を中心に研鑽を積んでいます。
 そうしたノウハウやスキルを身に付けた会計参与による成功事例が今後、続々と出てくると思います。つまり、会計参与を使うところと使わないところで、経営の結果に大きな差が出ることになるわけです。成長を目指す経営者の方は、ぜひ会計参与の活用を検討して頂きたいと思います。
Vol.13
2009年春号
このコーナーでは、OBCのASOS会員である会計士・税理士といった、企業と必ず接点のある職業会計人の方を、現在のトピックを交えながら紹介していきます。
櫻庭周平
事務局長・公認会計士・税理士
櫻庭周平
(さくらば しゅうへい)
NPO法人 会計参与支援センター

●NPO法人 会計参与支援センター

東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸ビル11F
TEL:03-5219-8652 FAX:03-5219-8653
ホームページ:http://www.kaikei-sanyo.com/

2006年5月の会社法の改正にともない新設された会計参与制度の普及と定着を図るため、櫻庭公認会計士事務所の櫻庭周平所長が中心となって同年6月に設立。同事務所内に事務局を設置している。会計参与の業務手続の支援、セミナーや相談会を通じた育成支援、会計参与と企業とをマッチングさせる仕組みの整備などを推進。2008年11月にはNPO法人となり、より公益性の高い事業としての展開を試みている。

●奉行EXPRESS 2009年春号より