特別連載コラム第3回:軽減税率導入の前に税率8%と10%の適正な設定を行い起こり得る問題の芽を早期に摘む
軽減税率が導入される背景。税率8%と10%の混在
 2014年4月以降、どのような商品・サービスであれ、消費税率は一律8%で統一されていました。お店に行き、何を買っても同じ税率の消費税だったので、「適用されている税率が合っているかどうか」という疑問の余地はありませんでした。しかし、2019年10月に予定されている増税からは、同じお店であっても10%の税率と8%の税率の2種類(軽減税率)が適応されることになります。
 誰しも、日々の暮らしで消費されるものは、「1円でも安いと嬉しい」と思うはずです。そのような中で、税率8%と10%の基準が明確になっていない場合、「損をした」と考える消費者からクレームが入ってしまうことが予想されます。軽減税率に対応するには、システム対応に加え、どの商品・サービスが税率8%なのか、あるいは10%なのか、自社における軽減税率の基準を明確にし、それを消費者や顧客にしっかりと伝えることが必要となります。
 消費者の負担を増やすことになる消費税は、生活必需品をはじめ、すべての商品にかかるため、所得が少なく税金が負担できなかった層の人たちへの生活費を圧迫してしまうという大きな問題があります。
 そこで日々の生活に欠くことのできない飲食料品・新聞については、消費税率をこれまで通り8%とすることになったのです。これが、軽減税率が導入される背景です。消費税率8%の軽減税率が適用される飲食料品と新聞は、次のような定義となっています。
■消費税率8%(軽減税率)の定義
飲食料品 食品表示法に規定する食品
酒類、外食・ケータリングは除く
医薬品、医薬部外品は除く
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 この定義によると、スーパーなどに並んでいる野菜、肉、魚介類などの生鮮食品や、惣菜や弁当など調理されたもの、ジュース、乳製品、カップ麺、調味料などの加工品は8%の軽減税率の対象となります。これはコンビニや百貨店など、どこで買っても同様の扱いになります。
 ただし、飲料については、ビールや酒などの酒税法に規定する「酒類」は軽減税率の対象となりません。また、飲食品であっても「外食」にも税率8%は適用されません。レストランや居酒屋での飲食は、同じ飲食料品であっても消費税率は10%となります。ここでいう外食の定義は、「飲食店業者がテーブルやイスなどを置き、そこで食事をしてもらうサービスをすること」とされています。
野菜、肉、魚介類などの生鮮食品
惣菜や弁当など調理されたもの
ジュース、乳製品、カップ麺、調味料などの加工品
ビールや酒などの酒税法に規定する酒類
外食(レストランや居酒屋など)で提供される飲食料品
*ここでの外食の定義は、「飲食店業者がテーブルやイスなどを置き、そこで食事をしてもらうサービスをすること」
軽減税率導入で想定される問題
 軽減税率の定義はあるものの、実際の現場では様々な問題が想定されます。それが「この商品・サービスが税率8%なのか、10%に当たるのか」という判断です。起こり得る問題を考えてみましょう。
ファーストフード店での持ち帰り
 ファーストフード店の「店内飲食」は外食となるため税率10%となります。「持ち帰り」の場合は外食には当たらず税率は8%となります。どちらの税率が適用されるかについてガイドラインでは、食料品の提供を行った時点(レジで渡す時)に、お客さんの「店内食事」するか、または「持ち帰り」するかの意思によることとされています。
 ここで迷ってしまうのが、「レジでは持ち帰るつもりでいたけど、その後気が変わって店内で飲食することになった場合」です。その判断は飲食料品の提供を行った時で行うようになっているので、これは税率8%が適用されます。レジで受ける一言が金額を決めることとなります。

飲食店で残った料理を持ち帰る
 飲食店の店内で食事した時に、残った料理をパックに入れて持ち帰る場合はどうなるでしょうか。これも「外食」の税率10%となります。この判断もファーストフード店と同様に、食事を提供した時の意思で行われます。食べきれない量の料理を注文する場合、あらかじめお店に伝えてもらえれば「持ち帰り」と判断できるので8%の税率となります。
 店側は、自社の基準を明確にし、顧客が持ち帰る旨を事前に説明できるサービスなどを設定しておくと親切です。

玩具つきのお菓子
 食品と食品以外(玩具)がセットになって販売されている場合には、ガイドラインによると下記の要件を満たすと、その全体が税率8%の適用となります。
①金額が1万円以下であること。
②食品部分の価格の割合が全体の3分の2以上であること。

 これを満たせば、玩具部分も8%の税率が適用となり、安い価格で提供できます。自社の商品開発の中で、今後はこういったセット販売をすることで安価な提供が可能になることも参考にしたいですね。

 他にも考えられる問題はいくつもあります。自社ではどのような問題が想定されるかを洗い出し、常に最新の情報を入手するとともに、自社の規程について税理士や会計士と相談するなど、軽減税率に備えましょう。



同じ商品でも食べる場所により「一物二価」が生じることは、日本人にとっては未知との遭遇です。
そこで混乱させないのが「おもてなし世界一」の日本人のなせる業でしょう。
■執筆者 上田智雄(うえだともお)
1975年生まれ。税理士。いっしょに税理士法人(渋谷区恵比寿)代表社員、デルソーレ・コンサルティング株式会社 代表取締役。主な監修本に、『納税で得する一覧表』、『取り戻せる税金一覧表』、『人生の節目の書類書き方教えます』(以上、サプライズBOOK)などがある。
●奉行EXPRESS 2016年秋号より [→目次へ戻る]