連載企画2:活用シーンが増えるクラウド利用 知っておきたいクラウドの知識
クラウドとは何か。クラウドを利用するメリットとは
私たちがビジネスシーンで呼んでいる「クラウド(cloud)」とは、「クラウドコンピューティング」を省略した呼び方で、文字通り英語の「雲」から名付けられた言葉です。手元のコンピュータの中にあったデータやアプリケーション、ソフトウェアやハードウェアなどの機能をインターネット上のサーバ群に移行し、必要に応じてパソコンやスマートフォンからインターネットを介してそのサーバ群にアクセスし、必要な分だけ利用する形態を言います。サービスを提供するサーバ群がまるで雲の中に隠れているようなイメージからクラウドと呼ばれるようになりました。
image1 クラウドを利用するユーザーにとってのメリットは、必要なサービスを自ら購入しなくて済むことです。必要なサービスを必要な時にだけ利用できるので、利用する分だけかかる費用を支払えばよく、コストを抑えることができます。すでにあるサービスを利用するので導入に時間がかからず、すぐに運用できます。また、パソコンやモバイル端末を新しくした場合でも、クラウド上のサービスには影響がないので、以前と同じように使え、設定や移行に手間がかかりません。インターネット環境が整っていれば、いつでもどこからでもアクセスでき、場所やシーンを選ばず利用できるのも現代のビジネスパーソンにとっては大きなメリットです。
また、 BCP 対策のひとつとしてクラウドを活用することも一般的になりました。サーバは重要なファイルの保存や基幹業務システムの稼動など、企業を支える重要な役割を担っています。自然災害や大事故などが発生し、社屋が倒壊したり、電力の供給が制限された場合、サーバが故障したり、サーバを停止しなければならない状況が想定されます。サーバが使えないということは、業務をストップさせることになり、企業に多大な損害を与えかねません。そこでクラウドの出番です。信頼性のあるクラウドは、耐久性を確保した データセンター で専門家によって管理されており、非常用電源なども完備しています。万が一不具合や非常事態が起きても、早急に復旧できる体制が整っているため、リスク対策として利用する価値は高いと言えます。サービスを利用する際は、クラウドのサービスを提供する クラウドプロバイダー を見極め、データセンターの災害対策やもしもの時の対応がどうなっているのかをしっかりと確認しておきましょう。
BCP(business continuity plan) 事業継続計画。災害や事故などの予期せぬ事態が発生した際に、企業が事業活動を継続し、目標時間内に再開するための行動計画。
データセンター サーバやデータの管理センター。膨大な情報を安全かつ高速に処理できるよう、数多くの高性能サーバや大容量高速回線を完備。専門家による管理・監視、高セキュリティ建物の耐震性、自家発電装備など、リスク管理を徹底しています。
クラウドプロバイダー(クラウドサービスプロバイダー) クラウドベースのプラットフォームやインフラ、アプリケーション、ストレージサービスを他の組織や個人に提供する企業。様々な利用形態や利用プランを設定して提供しています。
中小企業におけるクラウド利用と、クラウドを使う上で知っておきたいこと
クラウドは「ITの所有から利用へ」という価値観の変化をもたらしました。その背景には、ITの進化スピードが加速し続けていることや、ITへの理解度の高まりがあります。日々新しい技術が誕生するITに対して、企業はその都度新商品を購入するという訳にはいきません。また、ITサービスを提供する企業が増えたことで、様々な企業から自社のそれぞれのシーンに合ったサービスをピックアップしたいという考えも増えました。このような変化の中で、場合によってはITを所有することがリスクになりかねず、そこにクラウドという新たな仕組みがニーズと合致したのです。
中小企業がクラウドに注目したい理由は、コスト削減効果です。従業員数が少ないため利用が小規模だったり、利用が限定的(数回だけの利用)であったりする中小企業にとっては、クラウドであればコストをかけずに最新のサービスを享受できます。専任者を採用するのが難しい状況でも、複雑な管理やバージョンアップなどをクラウドプロバイダーに任せられるのもメリットです。また、外部委託者や協力者といった社外の人と業務をやり取りする場面が多い場合にも、インターネットを介したクラウドは利用しやすいと言えます。ただ、パブリッククラウドでは、不特定多数が利用するため、セキュリティに不安を持っている方も多いと思います。クラウドの形態(ココを押さえよう! “クラウドの形態”参照)によっては、利用者を限定した形態もあるので、自社に合ったクラウドを選ぶとよいでしょう。

ここでクラウドのサービスモデルについて紹介しておきましょう。クラウドのサービスモデルには大きく分けて3つの形態があります。似たような名前なので、「クラウドには利用範囲に応じたサービスがある」と認識しておくだけでよいと思います。

SaaS(Software as a Service) 読み方:サース
ソフトウェア機能の必要な分だけ利用できる形態。ソフトウェア本体はサービス提供者が管理するコンピュータ上で動作し、ユーザーはその機能をインターネット経由で利用します。
PaaS(Platform as a Service) 読み方:パース
ソフトウェアの開発や実行を行うためのプラットフォームを、インターネットを介して提供する形態。ユーザーはアプリケーションを自前で構築することができます。
IaaS(Infrastructure as a Service) 読み方:アイアース、イアース
サーバや回線などをインターネット経由で提供するサービス。仮想化技術(コンピュータ上で複数のOSを稼働させる、または複数のコンピュータを1つであるかのように見せる技術)を利用したインフラ機能を提供します。

クラウドには様々な形態があります。自社に最適なクラウドを見つけることが大切です。
パブリッククラウド
⇒インターネット上に展開されるクラウドの一般的な利用形態。データセンターに置かれたコンピュータ資源を共有し、不特定多数で共有する利用形態を言います。
プライベートクラウド
⇒企業内に構築したクラウド。コンピュータ資源を特定の企業や企業グループ内だけで利用します。企業ごとに独自のシステムを構築できるうえ、不特定多数の利用がないため、セキュリティ面での不安が少ないのが特長です。基幹業務システムの運用で期待されます。
ハイブリッドクラウド
⇒データセンターに置かれたコンピュータ資源を共有するクラウド。プライベートクラウドと、パブリッククラウドを併用する形態を指し、重要なデータの処理はプライベートクラウドで行い、それ以外はパブリッククラウドを利用するといった使い方が想定されます。

他にも、「コミュニティクラウド」「仮想プライベートクラウド」「マルチクラウド」などがあります。
●奉行EXPRESS 2016年夏号より [ →目次へ戻る ]