「元気!」組ビジネスリポート
■積極的なモデルチェンジを繰り返し常に時代の変化に対応する柔軟性で
 今年度も5年連続2ケタ成長を継続中
1985年にホンダ系列のバイクディーラーとして創業した株式会社キズキ(本社・東京都町田市)。常に時代の先を読んで事業のモデルチェンジを重ね、今日では高級輸入スポーツバイクの正規ディーラーや中古バイクの販売を中心に、業界では珍しいレンタルバイクのフランチャイズ本部の顔を持つ企業に成長しています。
縮小傾向の二輪市場にあって右肩上がりの成長を持続する同社の積極果敢な経営モデルに迫ります。

■株式会社キズキ
本社/東京都町田市小川1251-1 TEL 042-795-8969
代表取締役…松崎一成 社員数…42名 URL:http://www.rental819.com/

1985年バイク販売として創業。国内メーカーのほか、DUCATI(イタリア)やKTM(オーストリア)といった輸入バイクの正規ディーラーとして新車を販売する。また中古バイクの販売を行うとともに、輸入スポーツバイクなどをレンタルする『レンタル819』のFCチェーン展開や、同チェーンで使用した高品質バイクを販売するサイト『PRIDER’S』も手がける。

最新モデルの新車をレンタル可能に。ライダーたちの人気を呼ぶ

キズキ店舗  株式会社キズキ(以下、キズキ)が展開するレンタルバイク事業が注目を集めています。同社が展開するレンタルバイクの専門ショップ『レンタル819』は市場でもパイオニア的存在で、サービスを開始して以来、貸し出し件数は2007年度が約4,000件、翌08年度には約10,000件、今年度は約30,000件と前年と比べ倍以上の件数を突破しています。現在では関東エリアを中心に札幌、仙台、京都、神戸、広島、那覇など全国に約40店舗のフランチャイズ店を抱えています(2009年10月現在)。
 貸し出し件数が年々増加する背景には、バイクライダーにとって憧れの存在であるハーレーダビッドソンやBMW、“バイクのフェラーリ”と呼ばれるドゥカティといった外国製の人気高級スポーツバイクの最新モデルを揃えているところにあります。最新モデルに加えて“新車”という付加価値がライダーたちの評価を高めました。
 手ごろな利用料金も人気の理由。例えばハーレークラスの輸入車は日帰り8時間で16,800円から、国産車400ccクラスが同じく10,500円(いずれも税・保険料込み)から。ヘルメットやグローブもつけられるので、免許さえあれば手ぶらで利用できます。さらに同チェーンではツーリング先の提案や、久しくバイクに乗っていないペーパーライダーのための講習会も実施しています。
「バイクを手放した往年のライダーなどにもう一度バイクに乗る楽しみを味わってもらう機会を提供するとともに、バイクの販売促進につなげようという狙いがあります」とキズキ社長の松崎一成氏は言います。

世の中の変化を見据え事業アイデアを練るおもしろさに開眼

 四輪車の整備士であり、スポーツバイクのライダーであった松崎氏は、27歳の時にホンダ系列のバイクディーラーとしてキズキを創業しました。順調に業績を伸ばし、3年後の88年には隣接する店舗の移転をきっかけに増床を決め、拡大路線へのターニングポイントを迎えます。ところがその直後、些細な一言がきっかけで3人いた従業員のうち唯一の正社員が退職してしまい、さらに高校生のアルバイト従業員も学業のために辞めてしまったため、松崎氏はたった一人ですべての業務をこなさなければならないという試練に立たされてしまいました。
「数ヶ月間は仕入・販売・営業・整備などすべて一人でやっていました。この時の経験が精神力の強さだけでなく、キズキの経営理念の土台になったと思います(松崎氏)」。
 その後ライダー仲間の協力もあり社員が増え、会社の基礎が作られていくと同時に、松崎氏は経営者として世の中の変化を見据えた事業のアイデアを練るおもしろさに目覚めます。新車のディーラーを行いつつ、中古バイクの販売を始めました。ちょうど二輪車でもオークションシステムが登場した頃で、現在のようにバイクの中古市場は確立されていない時期でした。
「新車は販売価格がほぼ決まっていて同じ車種を売るだけですが、中古バイクは自らが仕入れて値付けして売るという商売のおもしろさがありますし、それまで培ってきた目利き力や整備の技術力を存分にいかすこともできます。広告する1台の中古車を売り切って終わりにするのではなく、バックオーダーも受け付けるカタログ販売を考案し、新車同様に中古車を量販するしくみを確立しました(松崎氏)」。
 中古バイクに新車が持つ魅力と同様の価値を与えた販売手法に加え、業界のネットワークを活用した経営がキズキの成長を後押ししたのです。

乗りたい人は多いのに購入できない。レンタルバイクの成長は“不景気”

イメージ1  97年の法改正により、公認自動車教習所で400CC以上の大型自動二輪免許の教習が可能になり、以前より容易に大型バイクの免許を取得できるようになりました。キズキはこれを契機に大型バイクの免許人口とライダーが増加すると読み、ハーレーなど輸入車の正規ディーラーとなることを決断。2001年には交通量の多い国道246号線沿いの東名横浜町田インターチェンジそばという好立地に、日本最大級のドゥカティ専門ショップ「DUCATI TOMEI YOKOHAMA」をオープン。スポーツバイクのファン層を囲い込むことに成功しました。
 このように、コアなライダーを取り込むとともに、往年のライダーやペーパーライダーを顧客化する、業界では珍しい本格的なレンタルバイク事業を構想し、東京都の「中小企業経営革新計画」に申請・承認と同時に、レンタル専門店『レンタル819』を07年2月、東京・お台場にオープンさせました。開店後、約1年間は直営ショップで運営ノウハウを磨き込み、フランチャイズチェーン展開を決定し、同年12月に本部を立ち上げます。
「全く新しいビジネスです。社内に示すビジョンを明確に表現するのに最適な機会であると考えました。レンタカーはあってもレンタルバイクはないという常識を変える上で、この事業に本気で取り組むことを業界に宣言しました」。
 レンタルバイクの事業化成功の背景について松崎氏は“不景気”の後押しもあったと続けます。
「バイクは実用というより趣味で乗る人がほとんどです。以前より大型二輪車の免許取得が容易になったといっても、嗜好品と同じで不景気になれば購入を我慢する人も増えます。だからバイクに乗りたくても乗れない人が多くなる。そこにレンタルバイクの市場が存在していたという訳です」。

レンタルした新車を中古販売。はるかに高まる“生涯収入”

 06年6月道路交通法が改正され、駐輪場が確保できずにバイクを手放すライダーが増加。この状況にバイイングパワーを持つバイク買取業者が台頭し、国内で買い付けられたバイクの大半は輸出されてしまう状況になってしまいました。つまり大半の新車・中古バイク販売業者にとっては仕入れるバイクが払底するという事態になったのです。
 そこでキズキが目をつけたのは、レンタルバイクに新車を投入し一定期間使用したバイクを中古として販売するという事業。ハイクオリティな車両だけを扱う販売サイト『PRIDER’S』も立ち上げました。
「中古車が流通していないなら自分たちでつくればいいと考えました。レンタルとして使用していた新車であれば、中古として販売するまでの完璧な整備履歴を把握できるため、高品質が担保できるというメリットがあります。新車をレンタルできるとお客さまに喜ばれ、そのバイクを試乗車としてレンタルできる。そしてそのバイクが気に入れば割安で買える。さまざまな利用の仕方がレンタルバイクには存在します。経営的に見ても、新車として販売するよりレンタル収入と中古車としての販売収入が確保できる分、1台の“生涯収入”ははるかに高まります(松崎氏)」。
 このような中古バイク市場を背景に、時代の流れを捉え続ける松崎氏は今後の経営戦略についてこう語ります。
「事業拡大には、フランチャイズ加盟店を従来のバイク販売業者から異業種にも広げていく必要があります。バイクに関するノウハウがない事業者であることを前提に、マニュアルやシステムをつくり込んでいくことが当面の課題」。
 創業以来ほぼ3年周期で転機を迎えてきたという同社は、モデルチェンジを繰り返して業容を拡大してきました。市場での二輪車出荷台数は82年の334万台をピークに減少に転じ、以来1度も反転しないまま2008年度は約52万台と最盛期の6分の1以下にまで減少しています。そんな中にあってキズキは08年度売上高18億円を達成し、5年連続2ケタ成長を続けています。時代の変化を見つめ、積極果敢に業態を変化させる経営がいかに重要かを示す好事例と言えるでしょう。

●奉行EXPRESS 2009年秋号より [→目次へ戻る]