経営を「見える化」して強い会社を作ろう(4)
会社名:株式会社NIコンサルティング
投稿者名:代表取締役社長 長尾一洋
〜可視化経営の組織条件〜
 
   
 
可視化経営と内部統制

経営の「見える化」、可視化経営を実現するためには、ITを活用した仕組みが必要になる。紙や口頭で情報をやりとりしていたのでは、現場の情報を吸い上げて共有することなどできないからだ。内部統制やコンプライアンスを徹底させるためにITを活用することはもはや常識であり、私がお手伝いしてきた企業には、VMS(可視化経営システム)を導入してもらって社内のモニタリングを実現してきた。
しかし、ITさえ導入すれば可視化経営が実現し、内部統制が徹底できるかというとそうではない。そこには心を持った人間が存在し、その心には善も悪もある。善意の人間にも魔が差すということがあり、人間関係の中には嫉妬や憤怒も生まれる。と考えると、ITは必要条件ではあるが、十分条件ではない。ITを生かすための風土や価値観が必要となる。これを可視化経営の組織条件と呼ぼう。



可視化経営の組織条件は1.開放系、2.自律協調、3.相互作用、4.お天道様秩序の4つである。
1つ目の開放系とは、原則として社内の情報は隠さずフルオープンにするということだ。特に現場の活動情報は常に開示し、共有することを当たり前にしておく。現場の判断で、「これは共有する」「これは他の部署にも報告するべき」と情報の分別をしてしまっては、正しい現場実態が伝わらない。普段からオープンになっているから抵抗感もなくなる。
2つ目は、自律協調。これは社員個々が会社の一部であり、会社から影響を受けると同時に、会社に影響を与える存在であることを自覚し、自ら進んで仕事に取り組む風土を作ることを指す。一般に、「会社は会社、自分は自分」と会社と個人を分離して考えることが多いが、実際には、会社の評価が自分の評価にもつながるし、社員個々が良い仕事をしてこそ会社の評価も上がるというように会社と個人はつながっている。この関係は、その会社を退職しても消えてなくならない。たとえ退職しても「元○○にいた人」となって評価はつながっていく。法律はともかく、実際にはそうなっている。この現実を理解し、会社のために会社の仕事をするのではなく、自分のために自分の仕事をしていくという発想に切り替える必要があるのだ。義務感では頭が働かない。頭を動かすのは心であり、心は頭にある。嫌々やっていたのでは良い仕事はできないし、サボろうと思うと仕事を隠すようになる。私はこうした考え方を「全個一如」と「自己発働」として整理しているが、紙面の都合で詳述は避ける。
3つ目は相互作用だが、これは仕事が自分のものになり、自発的に取り組むようになることで生じるものである。前回、IT日報で相互理解が進むと相互信頼が生まれ、相互に信頼するから相互作用が生まれると指摘したのは、この3つ目の組織条件が整った状態を説明したものだ。相互作用は組織の揺らぎと言っても良い。揺らぎを許容しなければ新しいものは生まれて来ない。ここに内部統制のジレンマがあるのだが、統制を強化しようとして業務を定型化してしまうと揺らぐ余地がなくなってしまう。コミュニケーションはとれてもコラボレーションができないと言えば良いだろうか。社員個々が自律的に発想し、自己発働していけば自ずと定型外、想定外の動きが生じる。
そこで4つ目のお天道様秩序が必要になる。堅く言えば相互牽制となるのだが、これでは堅過ぎる。相互牽制では社員同士がお互いに監視し合うイメージだ。そうではなく、お天道様が見ているという感覚。誰も見ていないようでも誰かが見ているという感覚が望ましい。
キリスト教徒ならイエス様が見ていると言えば良いが、日本ではお天道様が見ているとなるだろう。原則として自律的に動いて良い。新しい発想をぶつけ合いながら新しい価値を創出して欲しい。しかしそれを隠れたところでやるのではなく、お天道様の下でやって欲しいというものだ。組織である以上、緩やかな秩序形成が必要なのだ。
戦国策に「士は己を知る者のために死す」とあるように、人が日頃の行動や努力を認めて欲しい、自分を知って欲しいと考えるのは当然のことである。管理して欲しいとは思わないが、見守って欲しいし、自分のことを認めて欲しいのだ。
IT導入と同時に、こうした組織条件の醸成、定着を進めることで、可視化経営に息が吹き込まれる。(完)