“会計士は見た!!”決算書の裏側にある利益操作(1) −中小企業編−
会社名:株式会社プログレス・パートナーズ
投稿者名シニア・マネジャー(公認会計士):岩崎力也 

〜利益操作で節税?〜
岩崎力也  
   
 
利益操作で節税

毎年6月下旬になりますと、3月決算の株式会社の株主総会が集中的に開催され、決算の承認が行われることとなります。NHKの土曜ドラマでは“監査法人”が放映され、書店では会計本がベストセラーとなり、会計の考え方に対して社会的な関心が高まっています。又、利益操作に対しては法律的にも厳しいペナルティが課されるようになり、平成21年3月期からは金融商品取引法(旧“証券取引法”)により、適正な財務報告のための内部統制(いわゆるJSOX)が導入されることとなりました。そこで筆者の体験した利益操作の事例、利益操作を引き起こす原因、それから最新のトピックである内部統制の概要について、4回にわたってご紹介させていただきたいと思います。

動機の解明 −利益操作の裏に動機あり−

筆者は約10年間、監査法人にて会計監査に従事しましたが、効率よく利益操作の有無を監査するには“犯罪の裏には動機あり”ではないですが、その背後の動機や経営環境について理解することが重要であることを実感しました。そこで利益操作と動機・経営環境の関係について、大きく中小(非上場)企業(第1,2回)と上場企業(第3,4回)に分類して、話を進めていきたいと思います。

動機(1) 節税目的−せいぜい課税の繰り延べですが・・・−

法人税等の大部分は、企業の所得にかかるわけですから、納税のためという観点からは、所得(利益)を少なく見せかけたいという経営者も少なからずいらっしゃるでしょう。
そもそも納税は国民の義務であり、所得(利益)の過少計上については、当然税務署が目を光らせています。誤った節税の多くは税務調査の結果、修正申告という結果に落ち着くことが多いわけです。
それでも資金繰りの都合から、納税額を可能な限り翌事業年度以降に繰り延べて遅らせて支払うための会計処理の操作を見かけることがあります。筆者が最近見かけた事例は、下記のとおりです。

事例i 特別損失に商品評価損を計上したケース−特別損益や雑損益は注目される勘定科目です−

確実に販売可能で売却すれば利益がでる商品(鉄屑スクラップでした)について、特別損失で商品評価損を計上して節税(課税の翌期への繰り延べ)を試みた事例があります。鉄屑スクラップという商品の特性上、評価損を計上しても、税務署に違和感を持たれる可能性は低いと思われたのでしょう。
当期に利益(課税所得)が少なくなることにより納税金額が少なくなるものの、翌期に販売すれば利益が戻し入れられるため、2事業年度を通算すると納税金額は変わらないですし、税務署に修正を求められる可能性が高いので、止めることを進言しましたが、少しでも成長するための資金を確保するためにということで、国税から実際に指摘を受けるまでは修正しないというご回答でした。
ここで申しておきたいのは、決算書を見慣れた者にとって、特別損益や雑損益は、真先に注目する勘定科目の一つだということです。この勘定科目が多額に計上されれば、その原因や妥当性は検証したくなります。税務署だけではなく、金融機関などの利害関係者も注目する勘定科目だと思います。

事例ii 本来、売上に振り替えるべき前受金をそのまま残すケース −顧問税理士、税務署に事前に相談しましょう−

岩崎力也 通常、販売代金の入金は商品あるいはサービス提供後になるため、売掛金が計上されることとなります。しかしながら、商取引上の都合により、商品(あるいはサービス)の提供前に入金が行われることがあります。この場合、商品(あるいはサービス)提供の時に対応して、売上に振り替える必要があります。
筆者の見た事例では、本来、決算月の3月までにサービスを提供したため、正確には売上に振り替えるべき前受金を設備投資資金などの資金繰りの都合から、そのまま前受金に残していたケースがあります。このケースでは、契約内容、取引内容などの状況について税務署に事前に相談して了解を得ていたため、トラブルになることもなく、課税を繰り延べることができたようです。

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